『らんまん』神木隆之介×浜辺美波は新時代の“理想の夫婦” 妄想力/想像力の大切さも
万太郎のモデル・牧野富太郎の場合、妻が生計を立てるため渋谷の荒木山(いまの円山町)で待合茶屋を営んだ。そちらの資金は3円で、寿恵子の120円より破格である。そして、牧野の妻は、この店をやるため牧野と別居していたとか。このようなドライな関係でもなく、当時の価値観の、男が家長として稼ぎ、妻は子育てと家のなかの仕事を担当するのでもなく、お互いが夢を持ち、相談しあって、互いにいい影響をもたらしながら、協力しあいながらやっていくという、極めて理想的な形は万太郎と寿恵子である。万太郎は体を大事に、と労う場面まであるのだ。朝ドラでは必ず、男性がダメ男で、迷惑を被ったヒロインが奮闘するという流れにする必要もない。ふたりがよきパートナーシップを築きあう話があっていいし、これからはそういった表現が増えていくだろうと予測する。
そして第23週でもう一点、注目すべき点がある。「妄想」だ。第104話で、寿恵子が、助け合いのない街で助け合うためにはどうしたらいいか聞くと、りんは「妄想」をすすめる。荒れ地にひとり、どうしたらいいか、妄想するのだ。寿恵子は第105話で、渋谷の街の人たちにも「妄想」を促す。挨拶するとき、「渋谷はあぶれ者のふきだまり。だからこそ誰のことも受け入れられる懐の深い土地です」と言い、あぶれた者同士、協力し合おうと持ちかけるのだが、ここで新参者がいきなり、まっすぐ正論をぶっても、諦めてしまっている人たちの反感を買うだろう。そこを、「妄想」だと言って、いったんハードルを下げる。そして街の人たちが自主的に今後の想像をふくらませるのだ。なんて賢い人なのか。
根津も旧幕時代、何度も焼けて建て直していまがある。渋谷もいまは中心から外れた荒野だが、人々の妄想によって、快適な場所に生まれ変わることができる。それを妄想(想像)からはじめようとする提案。戦争や自然災害や、いろいろなことで人間は零の荒野に放り出されることがある。でも妄想力(想像力)は失われない。誰にも何にも奪われることのない力を駆使して、人間は何度でも何度でも立ち上がっていくのだ。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK