『らんまん』映画のような月明かりの神演出 希望・苦悩・決意が伝わるそれぞれの現在地
そして波多野は、万太郎に野宮(亀田佳明)の発見が世界どころか日本国内からも疑われ、認められないこと、それを受けて野宮が辞表を出すことになったことを告げる。
「認めんもなにも……真実じゃろ」
台湾で戦争の傷跡を目の当たりにしてから、万太郎は人々の欲望に対して敏感に反応し、嫌悪してきた。自分も学歴がないことだけを理由にあらゆることが認められなかった時と同じ形で、野宮の発見が否定されている。世界と張り合うことばかりを考える日本国、そして大学のスタンスに賛同できない万太郎。そして、同じように先人(田邊教授)のようにならない気持ちで頑張ってきたが、最終的に野宮を見捨ててしまった波多野。別れた後、2人は物思いにふける。
まるで『ウエスト・サイド・ストーリー』の「Tonight」のように、登場人物が思い思いに月を見上げる演出。あの映画でも、その夜の新たな出会いや恋への期待、希望を抱く者もいれば、敵対する相手との抗争で勝つことばかりを考えている者もいた。最初に映されるのが、助手として頑張っていきたいという“希望”を胸に抱く青年・虎鉄というのも素晴らしい。あの頃は希望だけを持っていた。虎徹の現在地点から歳を重ねた他のキャラクターたちは今、様々な想いを抱いている。商売をすることについて考える寿恵子の不安と挑戦。“今は”空のおちょこで乾杯する藤丸、竹雄、綾の決意。野宮の件で罪悪感を抱く、波多野の苦悩。そして、一際鋭い視線で月を見つめる万太郎の憂い。彼らの想いは、どこへ向かうのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK