『らんまん』今野浩喜の好演がもたらした大窪の“愛” みえと寿恵子の痛快な最強タッグも
「古いんだよお前は」
そう吐き捨てた大窪(今野浩喜)がついに大学を去ることになってしまった。『らんまん』(NHK総合)第107話では、そんな明治27年の東京の様子があちらこちらで窺えるような展開となった。
大窪が万太郎(神木隆之介)に対して当たりがきついのは、今に始まったことではない。しかし、2人は以前ヤマトグサの研究で力を合わせた。この時、大窪が実は植物学に対して素直に向き合いきれなかったことへのもどかしさ、万太郎を羨ましく思う気持ちを抱いていたことがわかり、なんて人間くさくて不器用な人なのだろうと思った。それに対し万太郎は、田邊(要潤)に対してもそうだったように、自分に対して強い態度を取られることはあまり気にしてなく、“自分が尊敬できる相手がどうか”だけがむしろ重要、とでもいうような具合だ。万太郎は、大窪を尊敬していた。そして万太郎から植物を愛することを学んだ大窪も、彼を尊敬していた。
だからこそ、好きに、自由に植物学を楽しむ万太郎でいてほしかった気持ちがあったのかもしれない。月給15円なんかで戻ってきても、もうこの植物学教室は以前とは違う。万太郎が期待するようなことはできない。むしろ、身動きが取れなくなって苦しむかもしれない。そうして傷ついたり悩んだりする万太郎が見たくない、とでも言いたいかのように、大窪は万太郎に強い言葉を浴びせ続ける。
「ヤマトグサなんか誰も知らないんだよ。あんなひょろっこくて、かわいいだけの……」
ヤマトグサへの悪口なのに、「かわいい」という言葉が出てしまう大窪。万太郎も気づいていたように、表面的には出さない彼の植物への愛は確かなものだった。どれだけ悪態をついても、彼の紡ぐ言葉の中に必ず“愛”がある。大窪がこれほどまでに魅力的なキャラクターになったのは表情としてもぶっきらぼうを貫き通し、セリフも尖っている彼に、その奥行きを持たせた今野浩喜の演技あってこそのものだ。感情の機微を絶妙なニュアンスで相手に伝える、このテクニックが本当に素晴らしかった。姿が見えなくなっても深々と頭を下げた万太郎。大窪の退場に対し、最大限の敬意を表した。