『マイ・エレメント』制作初期はもっとダークな物語だった? “仲間”の存在が変化の鍵に

両親の死を乗り越えるきっかけとなったピクサーの仲間たち

ピーター・ソーン監督(右)

ーー過去にさまざまな困難を乗り越えて名作を生み出してきたピクサーの方々にとっても、『マイ・エレメント』の制作は非常に困難な作業だったわけですね。

ソーン:その通りです。また、テクニカルな面に加えて、感情的な部分でも困難がありました。それは両親の“死”です。この映画は、両親に感謝の気持ちを伝えるつもりで作ったのですが、制作中に父と母を亡くしてしまいました。両親の死は、作品にネガティブな影響を与えましたが、それを支えてくれたのが、ピクサーの仲間でもあるほかのアーティストたちでした。彼らのおかげで、僕はまた自分自身を見つけることができたのです。実は制作の初期の段階では、父が亡くなったことが影響して、もっとダークなストーリーでした。それが結果的にいまの形になったのは、仲間たちが僕を立ち直らせてくれたおかげなんです。

ーーピクサーのアーティストたちのチームワークの良さがうかがえるエピソードですね。『マイ・エレメント』はピクサーにとっても新しい成功を収めた作品になったと思います。今後はどのようなことにチャレンジしていきたいですか?

ソーン:僕は2000年、スティーブ・ジョブズがオーナーだった頃にこのピクサー・スタジオにやってきました。あなたもこのオフィスにやってくる間に通ってきたと思いますが、このピクサー・スタジオの建物は、正面玄関から入ってメインのアトリウムを軸に、右側と左側の2つに分かれています。ジョブズは脳をイメージして作っていて、論理的な作業をする“左脳”のチームは左側、クリエイティブな作業をする“左脳”のチームは右側に配置されているんです。左側にいるテクニカルな分野のディレクターやレンダーファームのスタッフと、右側にいるデザイナーやストーリーアーティストが、真ん中のアトリウムで顔を合わせるんです。このコンセプトは、『トイ・ストーリー』に顕著に表れていて、あの映画では芸術とコンピュータが見事な形で融合しています。僕はピクサーのそういうところが大好きで、僕が『マイ・エレメント』で意図したことでもあります。スティーブ・ジョブスをはじめ初期にいた人たちが意図したことを、僕たちがやり続けること。コラボレーションをしながら、全力を尽くしてクオリティの高いものを作り続けること。それが、僕がこのスタジオでチャレンジし続けたいことですね。テクノロジーとアートは常に変化しています。それはとてもエキサイティングなことだと思います。これらふたつを融合して、次に何ができるかを考えていきたいです。

■公開情報
『マイ・エレメント』
全国公開中
監督:ピーター・ソーン
プロデューサー:デニス・リーム
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/my-element

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