『マイ・エレメント』制作初期はもっとダークな物語だった? “仲間”の存在が変化の鍵に

 火・水・土・風のエレメント(元素)が共に暮らす“エレメントの世界”を舞台に描いたディズニー&ピクサーの新作映画『マイ・エレメント』。リアルサウンド映画部では、4月下旬、米カリフォルニア州にあるピクサー・アニメーション・スタジオでピーター・ソーン監督にインタビューを行った。前作『アーロと少年』での経験や『マイ・エレメント』に込めたパーソナルな思いについて語ってもらった前編に続き、後編では、ものすごく困難だったという制作に関するエピソードや、ピクサーのチームワークについて語ってもらった。

『マイ・エレメント』はパーソナルな作品 監督が明かす『アーロと少年』からの変化

ディズニー&ピクサーの新作映画『マイ・エレメント』は、火・水・土・風のエレメント(元素)が共に暮らす“エレメントの世界”が舞台。…

初期のキャラクター造形には『ゴーストライダー』的なものも?

ピーター・ソーン監督

ーー映画の中で描かれる火・水・土・風の4つのエレメントのキャラクターは、それぞれ絵のトーンが大きく異なっています。作業の手間を考えると、ある程度統一するという選択肢もあったと思いますが、最終的に現在のかたちに決めた背景について教えてください。

ピーター・ソーン(以下、ソーン):それぞれのエレメントのコミュニティにも違いがあるように、それぞれの文化を特徴的に表現したいと思ったからです。ただ難しかったのが、火・水・土・風についてそれぞれ敬意を表しつつも、ステレオタイプな表現にしてしまわないことでした。それと、「火」をメキシコ、「土」をアジア……というように、別の文化に似せたりつなげたりすることもしたくはありませんでした。その考え方は、それぞれのエレメントを表現する上での土台のひとつになりました。また、同じエレメントの中でも、まったく違うキャラクターが共存しています。「水」のウェイドの家族は感情的ですが、同じ「水」でも他のキャラクターはそうではなかったりしますし、同じ「土」にしても、エンバーに恋心を抱く少年のクロッドと市役所職員のファーンはまったく違った個性を持っています。「風」のキャラクターにしても、みんながゲイルのように怒っているわけではありません。そうやって同じエレメントの中でも、キャラクターに多様性を持たせていきました。

ーーアニメーターの方々が、各キャラクターを表現するのは技術的な部分で難しさがあったと語っていました。特に感情的な「火」のエンバーはさまざまな試行錯誤があったそうですね。

ソーン:その通りです。「火」のキャラクターを作り始めた頃、僕はそれらをスーパーヒーローのように描いていました。手から火が出てくるとか、そういうスケッチを描いていたんです。でも、そこには何の感情もなく、すごく冷たい感じがしました。その後、「火」のキャラクターが「水」のキャラクターを触ってみようとしているスケッチを描いてみました。そのスケッチの中では、「水」のキャラクターの手が沸騰し、泡が出ています。それを見て僕は、妻と恋に落ちた頃、体が近づいたときに鳥肌が立つような、身体中に電気が走るような感じになったことを思い出しました。「火」と「水」も、そういった感情をアニメーションの動きで表現することができるのか、と。そのアイデアは、ある意味、アニメーターたちを追い込むことになりました。それを実現させるためにツールを開発する必要性も出てきました。「火」が怒っているところを考えるのは簡単です。でも、傷ついているとき、あるいは罪悪感を覚えているときは、どう見えるのか。僕たちは、それらをエフェクトの担当者と一緒に見つけていかなければなりませんでした。その作業はものすごくハードでした。

エンバーのコンセプトアート

ーーさまざまなキャラクターの中でも、表現するのが一番難しかったのは?

ソーン:どのキャラクターも、いろんなレベルにおいて難しかったです。『アーロと少年』で監督を務めたときに、「恐竜が現実の世界にそぐわない」と言われたことを思い出しました。『アーロと少年』では、そもそも僕らは現実世界に寄せることを狙ってはいなかったのですが、『マイ・エレメント』においては違います。それぞれのキャラクターが違っていながらも、同じ世界にいる感じを出したいと思っていました。それがこの作品において難しかったことのひとつです。現実的でありながらも、漫画っぽさも持ち合わせていること。そのバランスをどこに見出すか。それを「火」「水」「土」「風」それぞれのエレメントにおいて考えなければいけませんでした。たとえば、「風」のキャラクターを現実的にしすぎてしまったら、「火」のエンバーと同じ映画にいるようには見えなくなってしまうという問題もありました。実は、僕らが作ったバージョンの中には、『ゴーストライダー』や『ロード・オブ・ザ・リング』に出てきそうなものもあったりしたんですよ(笑)。そうやっていろいろと試行錯誤する中で、ベストのバランスを見つけていったのです。とにかく本当に難しい作業でしたし、完成した今でもそう感じています。中でも「水」は特に、制作過程ではモンスターのようでした。いま振り返ると、悪夢でしたね(笑)。

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