『らんまん』中村蒼の再登場がもたらした“差別”への問い 女学校廃止で田邊も窮地に
『らんまん』(NHK総合)第98話で、アメリカから帰国した佑一郎(中村蒼)が長屋を訪れる。万太郎(神木隆之介)と寿恵子(浜辺美波)は無事の帰国を喜んだ。
万太郎は佑一郎からアメリカの話を聞く。「俺はミシシッピにミズーリ川が流れ込む合流地点の堤防構築に携わっちょった」と話す佑一郎は、ミシシッピ川に架かるイーズ橋の緻密な構造は「美しいきこそ、無駄がのうて、強い」と評した。「美しいきこそ強い」と感慨深く語るその姿は、草花の美しさに感銘を受ける万太郎に通じるところがある。
佑一郎はアメリカでの経験を経て、土木工学の意義を知り、巨大な自然の力と人の暮らしを調和させることができる人間の素晴らしさを知った。だが、それと同時に人間の恐ろしさも知る。佑一郎は南北戦争の名残が残る南部で差別を目撃した。
「大きな橋も、鉄道も港も、巨大な建造物を造るのは人間の力や。けんど、人間は対等に扱われちゃあせん」
佑一郎の冷静沈着な口ぶりと憂うような佇まいによって、言葉の重みが増して聞こえる。佑一郎が深刻な表情で「昔は俺らも武士じゃ町人じゃゆうてやりよったけんど……」「人が人を差別するらあて……嫌じゃのう」と口にする姿を通じて、佑一郎が見てきた差別は、佑一郎が知った人間の素晴らしさ以上に衝撃を受けた出来事だったことがうかがえる。
そんな佑一郎にとって、草花に優劣をつけず、それぞれがそれぞれに面白いと語る万太郎は一目置く存在だ。佑一郎から「おまん、昔からいっぺんじゃち草花に優劣をつけちゃあせんかったろう?」と言われた万太郎が当たり前だと返すと、佑一郎は真剣な面持ちで「そう考えられること、当たり前じゃないき」と伝えた。草花も人間もそれぞれに面白く、そこに優劣はないはずだ。佑一郎は「おまん、この先もずっと変わりなよ」と万太郎へ言った。人間の恐ろしさに触れてきた佑一郎の切実な願いだった。