『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は事実上の1作目? マイケル・ベイへの愛と脱却

 何かと車にまつわる悲惨なニュースが多い今日この頃だが、何の奇跡か、そんな日本の世相にピッタリの素晴らしい映画が入ってきた。『トランスフォーマー/ビースト覚醒』(2023年)である。まず言っておきたいのだが、これは夏休みにピッタリの映画だ。アクションあり、ワクワクあり、カッコいいキャラあり、素直に「ご家族そろってお楽しみください」と断言できる。今までの『トランスフォーマー』でも1、2を競う完成度だと言っていいだろう。

 では、本題に入る前に、本作に至るまでの『トランスフォーマー』映画の歴史をザックリ振り返ってみよう。マイケル・ベイ監督の『トランスフォーマー』(2007年)は画期的な映画だった。スティーヴン・スピルバーグ的な少年少女の未知との遭遇を下敷きに、一瞬で車から人型ロボへ変形する問答無用でカッコいい変身シーン、ロボと米軍の真正面からのガチンコ市街戦などなど、とにかく見せ場がありったけ盛り込まれた傑作であり、今なおSFアクション映画史上にそびえ立つ金字塔である。

 一方で、続編になればなるほど作品のスケールは巨大化の一途を辿った。どんどん話はグチャグチャになり(脚本家のストライキと撮影が直撃したこともあった)、世界中の街や有名な観光スポットがメチャクチャに破壊されるが、「今って何で破壊されてるんだっけ?」と分からなくなることすらあった。マイケル・ベイが手掛けた『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014年)は、そんなカオスの頂点だ。何だかんだで悪漢から逃げ回る主人公たち。追い詰められて危機に陥ったかと思いきや、突如として通りすがりの中国人男性がキレキレの動きで悪漢をブチのめしてしまう。実はこの通りすがりの中国人男性はゾウ・シミンという中国で有名なボクサーで、つまりゲスト出演&サービスシーンだったのである。しかし分かる人以外には全く意味が分からないシーンであり、シリーズの混沌もここまで来たかと劇場で震撼したものだ。そして『トランスフォーマー/最後の騎士王』(2017年)でベイが監督から卒業する頃には、そびえ立っていた金字塔は、いつしか『SASUKE』の反り立つ壁となってしまったのである。

 映画を作っている側もさすがにこれ以上のトッ散らかるのはマズいと思ったのか、シリーズは方向転換を始める。『バンブルビー』(2018年)は公開前にはシリーズの前日譚としつつも、ほとんどリブート、つまり仕切り直しに近い内容だった。ストーリーも1作目のジュブナイル感重視に立ち返り、ロボット同士のドつき合いをさせつつ、都市破壊映画ではなく青春映画的な爽やかさもある快作に仕上げたのだ。

 今回の『トランスフォーマー/ビースト覚醒』は、この『バンブルビー』路線を継承しつつ、主要キャラを登場させ、さらにシリーズの今後を匂わせる作品に……つまり完全な仕切り直しになっている。なのでシリーズを追っていなくても全然OKであるし、むしろこれが事実上の1作目だと考えてもいいだろう。前知識は「車に変形する巨大ロボットの宇宙人が正義と悪に分かれて戦っている」くらいで十分だ。

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