『らんまん』失い続ける万太郎が“失わないもの” 竹雄と綾も乗り越えられるのか

「いいことがあったぶん、よくねえことも起きる」

 万太郎(神木隆之介)がムジナモを見つけたとき、福治(池田鉄洋)が言っていた言葉だ。あの時からすでに不穏さはあったが、まさかこんなにもよくないことが続くことになるとは。『らんまん』(NHK総合)第92話で、万太郎はまた大切な存在を失ってしまった。

 初めは田邊(要潤)から大学の出入りを禁じられ、標本の寄贈を求められたこと。その次は園子の旅立ち。そして今日、ロシアから届いたのは彼が唯一の希望を持っていたマキシモヴィッチ博士の訃報だった。万太郎は子供の頃から遠くにいる識者の尊敬する先輩を心の拠り所にすることが多かった。佐川にいた時は、植物学者の野田基善(田辺誠一)と里中芳生(いとうせいこう)、そして東京に来てからはマキシモヴィッチ博士がその存在だった。自分の学歴を一切気にせず、ただ実力を評価する者たちの声に万太郎の心は何度も救われてきただろう。

 そして久しぶりに再会した綾(佐久間由衣)と竹雄(志尊淳)が届けた、「峰屋」廃業の知らせ。暖簾をたたむだけではなく、自分の生まれ育ったあの屋敷も土地も失うことを知った。綾は深く頭を下げ、「峰屋」の当主として火落ちさせた責任を語る。その隣にいる竹雄も「峰屋」を守りきれなかった想いを語り、土下座をした。

 『らんまん』は第18週に引き続き“喪失”を描いている。万太郎も、彼の周りの人間も多くのものを失った。しかし、夫を亡くしたマキシモヴィッチ博士の奥さんが手紙に標本ラベルを同封したように、いつか園子に見せるためと図鑑の完成を誓った万太郎のように、失った者が失わないものもある。その“信念”の力強さを、本作は常に描き続ける。

 標本ラベルを手に取った万太郎は、博士の想いを託されて自分自身の標本名札を作った。“続けることを続ける”、シンプルに聞こえるが一番大変で尊いことを万太郎は決心したのだ。そして、大学の植物学教室に寄贈する標本も、どうせなら“槙野コレクション”として恥ずかしくないものにしようと前向きに動き出す。失意の中でも、自尊心を失わずに歩み出した万太郎の背中は寿恵子(浜辺美波)にも勇気を与えた。

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