『どうする家康』ムロツヨシの表情変化がひたすら恐ろしい 心を揺さぶる“人たらし”の才

 『どうする家康』(NHK総合)第30回「新たなる覇者」。伊賀越えを経て、家康(松本潤)は無事に浜松へ戻った。織田信長(岡田准一)の敵を打つべく、明智光秀(酒向芳)討伐を企てた家康だが、羽柴秀吉(ムロツヨシ)が一足早くそれを成し遂げた。秀吉は織田家の跡継ぎを決める清洲会議で、信長の孫・三法師を立てつつ、織田家の実権を握ろうとしていた。

 第30回では、秀吉の動きを警戒して柴田勝家(吉原光夫)との結婚を決意した市(北川景子)が、3人の娘を秀吉の手に委ね、夫である勝家とともに自害した。甲冑に身を包んだ市の凛々しい佇まいは兄・信長を思わせる。誇り高き織田家の娘として戦い抜くことを選んだ市の生き様は美しく、心が揺さぶられた。

 そして第30回は、市の凛とした姿勢とは裏腹に、野望をむき出しにしてその地位を高めていく秀吉の薄気味悪さが際立つ回でもあった。

 第29回放送後もSNS上で話題に上がっていたが、光秀の首を見た秀吉の反応は空恐ろしいものだった。信長に仕えていた時のように飄々とした口ぶりで「明智殿」と呼んだかと思えば、冷たく暗いまなざしを向け、冷徹な物言いでこう言い放った。

「今までで一番ええ顔しとるがね」

 秀吉のヘラヘラとした笑顔やおどける様子が彼の本心でないことは誰もが気づいていたはずだ。時折見せる表情や言動から秀吉が底知れぬ野望を抱いていることは感じられていたものの、光秀の首に対する秀吉の無情さには驚かされる。

 秀吉の冷淡なまなざしは勝家にも向けられる。光秀を討ち取った秀吉は、清洲会議で異議を唱える勝家を静かに威圧する。秀吉は「明智を成敗したもんの役目と心得とる」と勝家を見下すのだが、その空虚な目と腹の底へ響くような低い声色にゾッとする。この場面での秀吉の感情は、一見すると自身を邪険に扱ってきた勝家への恨みにも思えるが、どちらかというと光秀の首に向けられた無情さに似ている。光秀も勝家も、秀吉にとってさほど重要な人物ではなくなったといえる。彼らに対して秀吉は欲を抱かない。無関心さを表しているようにも思えた。

 そんな秀吉は市に欲を向ける。勝家と市の結婚を知らされた時には、おどけた様子で2人を祝って見せたが、もはや自らの言葉が本心でないことを隠そうともしなかった。秀吉は「我が妻には傷一つつけるだにゃあぞ」「欲しいのう、織田家の血筋が」と淡々と言葉にする。もっとも一番手に入れたいのは市その人ではない。

「そうすりゃあ、わしらあを卑しい出だっちゅ〜てバカにするもんはおらんくなる」

 素顔の秀吉はただただ己の欲望に忠実で、欲を叶えるためなら何でもする。欲を叶えるためなら周囲の人をも巻き込む。人の心をつかむ天才だが、心をつかんだ相手への関心や情はさほど持ち合わせていない。天下人への階段を突き進む秀吉にとって、乱暴な言い方をすれば、人の心は道具に過ぎない。

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