フジ月9“海ドラマ”は傑作ばかり? 『ビーチボーイズ』から『真夏のシンデレラ』へ

 『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)が、久しぶりの月9(フジテレビ系月曜9時枠)らしい恋愛ドラマだと話題になっている。

 本作はサップ(スタンドアップパドルポード)のインストラクターとして湘南の海で働く蒼井夏海(森七菜)と、バカンスで湘南を訪れた大手建設会社の跡取り息子の水島健人(間宮祥太朗)を中心とした、複数の男女が織りなす恋愛群像劇だ。

『真夏のシンデレラ』©︎フジテレビ

 過去の恋愛ドラマや恋愛リアリティショーのテイストを巧みに取り込もうとしている本作だが、地元で暮らす夏海たちとバカンスで訪れた健人の間にある経済格差が強調されたり、夏海の友人のシングルマザー・小椋理沙(仁村紗和)の描写がリアルだったりと、キラキラとした真夏の恋愛ドラマの向こう側に、脚本を担当する市東さやかの作家性が見え隠れする。

 市東は20022年にヤングシナリオ大賞を受賞した新人脚本家で、本作が連ドラ初執筆。元々、フジテレビにはヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー仕立ての若手脚本家をオリジナルドラマの脚本に抜擢するという伝統があった。近年はその伝統が途絶えていたが、2021年にヤングシナリオ大賞を受賞した生方美久を抜擢した『silent』(フジテレビ系)の成功をきっかけで、もう一度、若手脚本家にオリジナルドラマを書かせようという機運が高まっている。

 ただ、月9らしい夏の恋愛ドラマを復活させたいという『真夏のシンデレラ』の企画と、市東の作家性にはズレがあるように感じる。市東がヤングシナリオ大賞を受賞したデビュー作『瑠璃も玻璃も照らせば光る』(フジテレビ系)は、ヤングケアラーの女子高生が主人公の青春ドラマで、彼女が書きたいことは、もっと内省的で社会性の高い物語なのではないかと感じる。

『真夏のシンデレラ』©︎フジテレビ

 とはいえ、企画と脚本家にズレがあることが、間違っているとは思わない。なぜなら、過去の月9には、このズレによって生まれた傑作が多いからだ。

 例えば、2013年に放送された『SUMMER NUDE』(フジテレビ系)がそうだ。本作は3年前にいなくなった恋人の一倉香澄(長澤まさみ)のことを思い続けながら、海辺の町で暮らすカメラマンの三厨朝日(山下智久)が主人公の恋愛ドラマ。

 朝日を筆頭に、結婚式で花婿に逃げられたシェフの千代原夏希(香里奈)、朝日のことを十年間片思いしている谷山波奈江(戸田恵梨香)たち各登場人物の時間は止まっており、不在のヒロイン・香澄が広告モデルを務める巨大看板が、時間の止まった世界を象徴していた。

 脚本の金子茂樹は、山下智久、長澤まさみが主演を務めた2007年の月9ドラマ『プロポーズ大作戦』(フジテレビ系)でも、SFテイストの恋愛ドラマの中で、時間が止まった世界をモラトリアム空間として描いていた。このモラトリアム感は金子がこだわっている大きなテーマで、そのテイストを月9の恋愛ドラマに持ち込み融合させたのが『SUMMER NUDE』だった。

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