『らんまん』は“推し”がある人ほど共感する物語に 夢中になることの尊さと難しさ

 現在放送中のNHK連続テレビ小説『らんまん』。本作には何かに熱中している人たちが尊重される“軸”が存在している。

 主人公の万太郎(神木隆之介)は、正しくそれを体現している人物であろう。万太郎は、高知で酒造業を営む家に生まれ、当主になるべく育てられた。しかし、周囲の期待とは裏腹に、万太郎は幼少期から植物の魅力に取り付かれていく。その結果、万太郎は東京大学の植物学教室で学ぶべく、家から出て東京で暮らし始めるのだった。

 ご存知の通り、万太郎が東京で植物学を研究すると決意するまでには大きな壁があった。その大きな原因は、万太郎を当主にすべく奮闘をしていた祖母・タキ(松坂慶子)の存在があった。

 しかし、高知にいる間、万太郎が植物を調べることを否定する人間は少なかった。それは、タキも同じである。万太郎が峰屋のお金を使い、大阪から植物に関する高価な本を取り寄せたと分かった際、タキは本を没収したりするのではなく、万太郎に当主の仕事に触れさせているのだ。

 すなわち、万太郎が植物を好きという事実やその探求心を否定していないのだ(だから、万太郎と綾(佐久間由衣)を夫婦にさせようとする、タキの案が思い浮かんだとも言えるのだが……)。

 そのお陰で、万太郎は高知の植物標本を作り上げたり、東京大学植物学教室に通い始めたり、植物学雑誌を作り上げたりと、植物学の道で花開こうとしている。万太郎の熱心さを否定しなかったことが、万太郎の人生の選択肢を広げたのだ。

 万太郎の妻である寿恵子(浜辺美波)もまた、あるものに熱中している姿が描かれてきた。それは『南総里見八犬伝』だ。だが、この熱心さは万太郎のものとは少し異なっている。

 寿恵子は、『南総里見八犬伝』を全巻手に入れ、読み返していることはもちろんのこと、そこに出てくるキャラクター同士の絡みに「尊い」と言ったり、推し犬士である犬飼現八と同じ場所に牡丹の痣を描いてみようとしたり、時折物語になぞらえて現実の物事を考えたりしている。

 しかし、寿恵子はこのような熱量を外に放出しようとは積極的にはせず、一人の時に行っている。人生に彩りを添えるよう、仕事とは別のこととして熱中しているのだ。これは、熱中してきたものを人生の中心に置いている万太郎と大きく異なる。

 そしてこのように、特定に応援するキャラクターが存在していたり、推しと同化しようとしたりするのは、現代の“ヲタク”そのものとも言っていいだろう。

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