『君たちはどう生きるか』で叩き割られた“宮﨑駿の石” 悪意に背を向けず生き抜くために
続くラストでは「異質なものを取り入れて、なお生きていく」という、ある意味で現実に向き合う苦しい選択肢を選んだ眞人だが、最後に上の世界に持って帰ったものもまた石であった。『千と千尋の神隠し』におけるヘアゴムのような、冒険が夢ではなかった証としても大きな意味を持つ最後の石だが、本作ではもう少し違った側面も見出せる。理想で固めたフィクションの世界は本物にならずとも、現実世界で記憶に残る“お守り”としての役割を果たすことはできるーーつまり観客を重ねられた眞人が握った最後の石は、本作『君たちはどう生きるか』そのものなのだろう。解決しない社会問題に対する風刺的な視点や難解なモチーフもあれど、最後には観る人の背中をそっと押してくれる愛すべき“ジブリらしさ”に、作品への心の距離がぐっと近くなった気がした。
『君たちはどう生きるか』は現実を生き抜く私たちが、本当に必要なものを見つめ直すためのフィクションとして宮﨑駿の作り出した装置とも言える。宮﨑駿的世界観における悪意に満ちた現実を生き抜くために、やるべきことは何か。次は宮﨑駿の「君たちはどう生きるか」という問いを胸に映画館を後にした私たちが、道を選ぶ番なのだろう。
参照
※ https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/0811/27/news004_2.html
■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
主題歌:米津玄師「地球儀」
製作:スタジオジブリ
配給:東宝
©2023 Studio Ghibli