『らんまん』“優しい”藤丸だからこそ感じる辛さに共感 寿恵子を支える頼もしい一面も

 優しい人が、競争社会の中で辛い気持ちになって心を病む姿を見るのは辛い。『らんまん』(NHK総合)第77話では、万太郎(神木隆之介)を訪ねに藤丸(前原瑞樹)がやってきた。

 前回、学者の世界の厳しさを痛感した藤丸。伊藤孝光(落合モトキ)が田邊(要潤)よりも先に戸隠草を発表し、命名した件で彼は“どれだけの時間と労力をかけて尽力しても、先を越されれば全て水の泡になる”と絶望した。そんなに激しい競争世界なのだとしたら、自分は競争までしてそこに居続けたいのだろうか。彼は心根が優しい。成績が良い生徒ではないが、万太郎と共同研究をする前の大窪(今野浩喜)と違って、まだ自ら菌類の研究に興味を持つなど、純粋に植物学を楽しんでいる様子があった。だからこそ、“ただ好きだから研究している”万太郎のバイブスにも打ち解けられたし、植物学雑誌を刊行する話をした時には盛り上がっていたのだと思う。楽しかったんだろう。それに比べて、荒んだ気持ちで挑む“戦争”のような研究には藤丸の性根は合っていないのだ。

 それどころか、優しいし真面目な人間に限って競争心の高い人よりも精神的に病んでしまいやすい。彼のような人は、研究室に限らず現代の競争社会のあらゆる場所にいて、苦しんでいる。彼の抱える悩みは、前作のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の貴司くん(赤楚衛二)を彷彿とさせる。前に進み続ける者だけではなく、その場に止まったり、停滞したいと思ったりする者に触れられる物語が増えてきていることは、とても良いことに感じる。

「よかった、俺にできること一つくらいあって」

 つわりのせいで何も食べられない寿恵子(浜辺美波)に、機転を利かせて揚げ芋を作ってあげた藤丸のこぼした言葉。劣等感を感じる彼だけど、義理の姉につきっきりで看病をしてあげた優しさ、大学の件で悩んでいる自分をさておいて他者を気遣える優しさ、それは簡単に誰かが持ち得るものではない。万太郎は、そんな藤丸の良さを理解している。

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