『らんまん』大東駿介と神木隆之介がそれぞれの戦いを生きる 重なる喜びの陰で不穏な兆し

 ヤマトグサは山中に生える多年草。学名はTheligonum japonicum Okubo et Makino。日本に自生する固有種で、日本人によって日本の学術誌に発表された最初の植物である。

 『らんまん』(NHK総合)第75話では、万太郎(神木隆之介)と大窪(今野浩喜)の共同研究が実を結び、新種のヤマトグサが植物学雑誌に掲載された。並行して万太郎の自宅に石版印刷機が設置される。いつでも作業できる環境が整ったことで、万太郎の研究はさらに加速。ミクロの視点から万太郎は植物の真の姿に迫っていく。

 日本初ということは、万太郎と大窪にとっても初めてを意味する。ヤマトグサという名前の由来は、万太郎によると「万葉の心」があり、日本にちなんだ名にと考えたことによる。さんざん眺めたはずの図版に見入りながら、嚙みしめるようにその名を口にする万太郎と大窪の視線は優しくて、我が子をいつくしむような表情は名付け親そのものだった。

 万太郎と大窪の快挙に加えて、万太郎の『日本植物志図譜』第1集も発刊され、二重の喜びに沸き返る植物学教室と十徳長屋の人々。万太郎の成果を我がことのように喜べるのは、彼ら自身がさまざまな形で携わったこともあるが、万太郎が周囲の人々と誠実に向き合ってきた証でもある。

 昼夜を分かたず寝る間を惜しんで研究に没頭する万太郎は、膨大な仕事量とすさまじい努力を他人にあまり見せない。研究室や長屋、大畑印刷所の人々が知っているのは、彼らの前にいる万太郎だけだ。唯一、陰の労苦を知っているのが寿恵子で、夫婦となって夫の植物にかける情熱を目にしたことで、寿恵子自身も前のめりになっている。そのことは、石版印刷機の購入や梁や壁に隙間なく並べられた図版に表れていた。

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