『こっち向いてよ向井くん』赤楚衛二の新たな魅力が開花 恋愛迷子に向けた究極の指南書に

 “不器用男子”という赤楚衛二の新たな魅力が開花する。『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)は、ねむようこの同名コミックスを原作に、雰囲気よし、仕事もできるのに10年も恋をしていない向井くん(赤楚衛二)の久しぶりの恋を描く物語だ。主演の赤楚を筆頭に、生田絵梨花、波瑠、藤原さくら、岡山天音らが脇を固める第1話は、まるで恋愛迷子に向けた究極の指南書のような充実ぶり。恋と人間関係の奥深さを考えさせられる回となった。

 10年も恋をしていない向井くん(赤楚衛二)だが、新たに派遣社員として会社にきた中谷真由(田辺桃子)とひょんなことから距離が縮まり、一緒にカレー屋へ行くことに。向井くんはそこで、真由から仕事の相談を受けた。その後も、真由は向井くんを意識しているかのような行動をとる。河西(内藤秀一郎)から誘われたときも、向井くんのことを気にして“助けて”欲しそうな表情を見せていた。ある時、真由は会社の朝礼で誕生日の人にプレゼントを渡す「お誕生日係」に任命される。そこで向井くんにプレゼント選びを手伝ってほしいと言い、一緒に買い物に行くことに。いい雰囲気かのように思われたが、翌日、真由から驚きの事実が告げられる……。

 第1話から衝撃の展開が続き、恋の“表” と“裏”が赤裸々に明かされた。10年ぶりの恋にウキウキ気分の向井くんを堪能した視聴者は、後半には「答え合わせ」の大どんでん返しを見せられることに。実は真由はすでに河西と交際を始めており、向井くんに好意を寄せているかのような数々の言動は、ほとんどが向井くんの勘違いだった。物語の序盤で描かれるほんの些細な「モヤっと」シーンたちは、実は向井くんの不器用さゆえに起きていたことだったと明かされたのだ。

 だが本作が奥深いのは、この恋愛描写には正解がないというところ。たとえば河西が真由のイヤリングを「イカの卵」と称していじる姿を、不快なコミュニケーションと思う人もいれば、好意ゆえのいじりだと感じる人もいるのではないだろうか。結局、真由は河西に不快感は抱いておらず、それどころか交際するまでに信頼関係が出来ていた。人と人の信頼関係というものは、決して外側からは推し量れないものなのだと痛感する。

 そこを的確に突いた発言が、洸稀(波瑠)の「向井くんってさ、あんまり相手の気持ち考えてないんじゃない?」「『女の子』なんて人格はないの。人それぞれ相手に合わせて考えて」という言葉。向井くんの女性に対する思い込みゆえの恋愛での暴走を、説き直すのだった。さらにこの言葉は、「最終的に真由は河西のことが嫌じゃなかった」という事実とも結びつく。人によっては不快かもしれない河西の言葉も真由は気にならなかったというのは、少なくとも向井くんよりは河西のほうが「相手の気持ち」に即したコミュニケーションをとっていたということになる。本作は、こうした人の気持ちに真正面から向き合うドラマなのだ。

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