『らんまん』浜辺美波が大胆さを発揮 池田鉄洋の助言はパートナー持ちに優しく刺さる
寿恵子(浜辺美波)のほうが、実は大胆で肝が据わっている。『らんまん』(NHK総合)第72話は、彼女の美しい“強さ”を描いていた。
思っていたような新婚生活ではなかった。遅くまで起きていて、一緒に寝てくれない万太郎(神木隆之介)。寂しさもあるが、同時に彼の体が壊れてしまうのではないかと寿恵子は心配している。心配だけど、足を引っ張りたくはない。そんな彼女の悩みを聞いてくれたのは、長屋に住む棒手振りの福治(池田鉄洋)だった。
私には何ができるのか、とこぼす寿恵子に洗濯に食事、掃除などをやっているじゃないかと励ます福治。「暮らしのことをやってもらっているから、安心できる」という語りは、画面の向こう側で同じように忙しいパートナーの側にいる者に刺さる。
「別に万ちゃんなんて立派なやつじゃねえからさあ。ただ好きなものがあって、それしか見てない。それだけなんだからさあ」
彼の言葉は、長屋に来る前に棒手振りの仕事に満足してしまった福治を見限り、出ていってしまった元妻への想いによって、より重く感じさせる。稼ぎではなく、好きなことを優先して妻を置き去りにしている万太郎と自分を重ねているのだ。それでも、男を作って逃げた元妻を責めずに「俺がそうさせてしまった」と言ったり、「俺も女房に毎日がっかりされるのもきつい」と本音を言ったり。長屋に住むキャラクターは特に、これまでの人生での苦労が彼らの言葉の節々に表れていて、優しい。そして、彼らの身の上話が万太郎や寿恵子などのメインキャラクターのプロットに関わる形で開示されていくのが上手い『らんまん』の脚本が、本当にどんな登場人物にも注意を払っていることを実感させる。
「私、あんな大きな人の妻になったわけですから」
そんなふうに言う寿恵子だが、実は彼女の方が万太郎よりも時に大胆になれることを私たちはすでに知っている。『南総里見八犬伝』で冒険を知った彼女は、これまでも鹿鳴館のダンスに突然誘われたにもかかわらず挑戦したり、裕福な男の妾になることをあんなふうに断ったり、ずっと“冒険”を恐れてこなかった。だからこそ、彼女が「印刷機を買う」と言い出しても唐突さもなければ不思議でもないのだ。むしろ、考えてみれば菓子屋の中で商売の手助けをしながら育ってきた彼女の方が、万太郎よりも費用対効果を考えることは得意なはず。彼女なりに採算が取れそうだと、それが妥当な選択だと考えたのかもしれない。なぜなら、万太郎はあれだけの時間をかけて印刷技術を習得しているのだから。あの一度だけで勿体ない、まだ還元され切っていない万太郎の能力を活かそうとさえしている。それに、家に印刷機があれば離れ離れになって寂しい思いをしなくてすむ、という気持ちもありそうで可愛い。