『ペンディングトレイン』痛いほど心に染みる山田裕貴の名演 赤楚衛二との絆が紡いだもの

 『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系/以下『ペンディングトレイン』)が最終回をむかえた。過酷なサバイバル生活の中で築かれる乗客同士の絆が丁寧に描かれ、それぞれの人生にもフォーカスが当てられた本作。一人ひとりが信じる道を選択し、最後は「生きる」ことで再会を願った。直哉(山田裕貴)という主人公の生き方を通して、人を信じることの意味、愛することの貴さ、そして理解することの本質を突きつけられた気がする。

 2026年の世界には、刻一刻と小惑星追突の日が迫っていた。そんな中、直哉らの証言が正しいということが研究機関により証明されはじめる。国は秘密裏に小惑星の軌道を逸らすロケットを飛ばすプロジェクトを始動。だが直哉をはじめ、優斗(赤楚衛二)、紗枝(上白石萌歌)、米澤(藤原丈一郎)、玲奈(古川琴音)ら乗客たちはなす術もなく、この状況を見守るしかなかった。そんな時、寺崎(松雪泰子)がスイスに防衛インフラの整った場所を用意できることになったと伝えてくる。乗客の多くはスイスに逃げる決意を固めるが、直哉と優斗は日本に残る決断をするのだった。

 これまで苦楽を共にしてきた5号車の人々は、現代に戻ってからも特別な絆で結ばれていた。未来に飛ばされていたときに電車の中で度々話題に出た「もしも戻れたら」の話。それが現実となった今も、互いに寄り添いあっていた。そんな中で、小春(片岡凜)は無事出産し、紗枝は新しい仕事を見つけた。居場所のなさを案じていた玲奈さえ明石(宮崎秋人)と復縁を果たし、それぞれが今の生活を真っ直ぐに歩んでいた。そんな嬉しい報告には、我々まで思わず涙が溢れてしまう。これまで金曜の夜の『ペンディングトレイン』を楽しみにし、乗客たちと苦楽を共にしてきたからこそ、みんなの笑顔に心からの幸せを感じる。だが、元の世界に戻ることに誰よりも希望を持っていたはずの優斗だけは違った。現代での生活に心折れ、すっかり荒んでしまっていたのだ。

 そこで優斗に手を差し伸べたのは直哉だった。それは未来の世界で優斗が直哉を救い続けてきたから。かつては心のシャッターを下ろし、誰のことも信じられなかった直哉。期待することで傷ついてしまうのではないかと、いつも“ひねくれ君”になることで自分を守ってきた。素直な気持ちを伝えられずに乗客たちを困惑させることも度々あった。それでも5号車の人々は「本当の直哉」を知るまで深く付き合ってきたのだ。その筆頭になったのが、優斗の存在だろう。直哉がこれまでの人生で抱えていた心の傷までも優斗は癒し、直哉が心のシャッターを開けられるまでに成長させた。

 だからこそ、今度は直哉が優斗の心を救う番がきたのだ。直哉は自分が何度も助けられたことを優斗に真剣に語り掛ける。直哉が「命じゃない、ここを救ってくれたんだよ」と自分の胸を押さえる仕草をした時には、その言葉の意味が痛いほど心に染み渡った。我々が見てきた2人の絆はお互いの命を守ってきただけではなかったのだ。「生きよう!」の言葉の重みと、「やれるだけやってみよう」の本当の力が最終話には込められていた。そしてとうとう優斗を演じる赤楚衛二の瞳に再び情熱が宿る瞬間が見て取れた。直哉と優斗のその後は本編では描かれなかったが、紗枝たちと合流し、また5号車での生活の思い出話に花を咲かせる2人の姿は想像に難くない。『ペンディングトレイン』は壮大な愛の物語であった。

■配信情報
金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』
TVer、Paraviにて配信中
出演:山田裕貴、赤楚衛二、上白石萌歌、井之脇海、古川琴音、藤原丈一郎(なにわ男子)、日向亘、片岡凜、池田優斗、金澤美穂、宮崎秋人、村田秀亮(とろサーモン)、萩原聖人、ウエンツ瑛士、西垣匠、志田彩良、白石隼也、大西礼芳、坪倉由幸(我が家)、山口紗弥加、前田公輝、濱津隆之、杉本哲太、松雪泰子
脚本:金子ありさ
演出:田中健太、岡本伸吾、加藤尚樹
プロデューサー:宮﨑真佐子、丸山いづみ
編成:吉藤芽衣、平岡紗哉
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/p_train823_tbs/
公式Twitter:@p_train823_tbs
公式Instagram:p_train823_tbs

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