『あなたがしてくれなくても』結末は賛否両論の大荒れ状態に? みちが導き出した答え

「夫婦」にこそ必要な個人の境界線

 このドラマが教えてくれたのは、夫婦になることで変わってしまうものがあるということ。それは、相手との境界線だ。結婚をして、一緒に生活をする上で、少しずつパートナーとの境目が曖昧になっていく。「多くと語らなくてもわかってくれる関係性になる」といえば聞こえは良いけれど、実際にはそんなふうに心から解り合えていることなんてない。

 長く生活を共にしていると余裕のない時期もある。そんなときに、パートナーの理解が少ないと「どうしてわかってくれない?」と思いがちだ。距離が近くなればなるほど、コミュニケーションをこまめに取らずとも、察してくれるはずだという期待が大きくなる。なぜなら夫婦は、様々な問題を乗り越えていく同志なはずだから。

 お互いのキャリアについて、子どもについて、日々の家事から将来について……夫婦として向き合う課題は次々と出てくるのに、お互いの考えをすり合わせる時間は日常の忙しさから少しずつ減っていく。同じ空間にいるからわかるはずだ、なんていうのは幻想で、意識的に対話しなければ徐々にすれ違っていくもの。それが、相手をどんなに好きだったとしても。

 それが本作では、身も心も裸になって相手と向き合うセックスに象徴されていた。お互いを受け入れるだけの余裕が今あるのかどうか。それが会話以上にダイレクトにわかる行為だから。肌を重ねてひとつになるという行為が、それぞれが個と個であることをより意識できる時間なのかもしれない。

 その時間と労力を相手のために割けるかどうか。その直接的な行為をしなかったとしたら、その代わりになるようなコミュニケーションができているか。そう振り返ることが、大事なのだろう。でも、どこかセックスに対して「性欲が強い」といったふうに捉えられがち。でも、夫婦にとってセックスは「性」を満たすというよりも、一緒に「生きる」意志を確認する行為に近いのではないか。

 離婚をしたことで、誠と楓がお茶を淹れながら対話できたように。みちと陽一が、愛しさを思い出せたように。自分の「個」を大事にしてこそ、相手に愛を持って接することができる。そんな余裕を見失いがちな現代夫婦に、対話のキャッチボールをするきっかけをくれたドラマだったのではないだろうか。

 来週は、最終話では語られなかった特別編が放送されるという。またまた視聴者の心をかき乱す形になるのだろうか、それともモヤモヤとした気持ちを収めることができるのか。SNSのリアクションも含めて、もう一度彼らに会えることを楽しみにしている。

■放送情報
木曜劇場『あなたがしてくれなくても 特別編』
フジテレビ系にて、6月29日(木) 22:00~22:54放送
出演:奈緒、岩田剛典、田中みな実、永山瑛太、さとうほなみ、武田玲奈、宇野祥平、MEGUMI、大塚寧々ほか
原作:ハルノ晴『あなたがしてくれなくても』(双葉社)
脚本:市川貴幸、おかざきさとこ、黒田狭
演出:西谷弘
プロデュース:三竿玲子
主題歌:稲葉浩志「Stray Hearts」(VERMILLION RECORDS)
挿入歌:稲葉浩志「ダンスはうまく踊れない」(VERMILLION RECORDS)
音楽:菅野祐悟
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/anataga_drama/
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