黒沢ともよが語る、『スキップとローファー』の役作り 「私の喜びや悲しみを美津未に」

 高校生たちの等身大なスクールライフを描き、彼らの人間関係の悩みや付き合い方から多くの気づきを与えてくれるアニメ『スキップとローファー』。“日常系”と称されるような緩いテイストながら、人間的に未熟な彼らが悩み、成長していく様子が老若男女問わず人気の作品だ。

 本作の空気感を生み出し、主人公でありつつ紛れもないキーパーソンである美津未を演じているのが黒沢ともよ。黒沢は『響け!ユーフォニアム』黄前久美子役でも感情の機微を見事に演じていたが、本作でも“田舎育ちでマイペース”な美津未が魅力的に映っているのは、黒沢の繊細な演技の賜物だ。

 それはただ声色を作っているだけではなく、役に対しての深い解釈と演技の工夫がある。今回のインタビューでは美津未役への向き合い方から作品への思い入れ、そして声優として大切にしていることを聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

「美津未ちゃんの言葉に託した」

ーー『スキップとローファー』が放送されて、幅広いファンの方から反応が集まっています。作品に対する反響について、いまどのように感じていますか?

黒沢ともよ(以下、黒沢):『スキップとローファー』は同じ業界の先輩方に「観たよ」ってお声掛けをいただくことが多いんです。なので、玄人の皆さんが愛してやまない作品でもあるということを改めて実感しています。私個人としては、最近行ってる陶芸教室の79歳の先生が「とっても好きだ」と言ってくれていて、先輩生徒さんたちにも熱意を持っておすすめしてくださっているんです。そんな姿を見て、すごく素敵な作品に携わらせていただいたことを実感しています。

ーー陶芸教室の先生は何がいいと言ってましたか?

黒沢:先生は、もうとにかく「転んだ後に起き上がるあのシーンが、こんなにわくわくするなんて」って感じです。先生にとっては美津未ちゃんは美津未ちゃんとして実際に存在してる女の子なので、「美津未ちゃんはすごい!」と言って感動しているみたいです。

ーー先生がそう言いたくなる気持ちもよく分かります。黒沢さん自身は美津未の魅力についてどのように考えているのでしょうか?

黒沢:美津未は凧島町という、全校生徒が何十人もいないような小さなコミュニティの中で生まれ育って、中学校まで生活していました。それ故に選択肢が少なくて、自分が選ぶ選択肢に対して何か自信があるんですよね。「人の上に立つ」みたいな発言も、本人からしたらギャグなんですけど、そういう迷いのなさといいますか、健気さみたいなものはすごいなと思います。私自身は元々子役だったこともあり、どちらかというと志摩くんとかに共通点が多い人生でした。だからこう、美津未ちゃんの純真さって言いますか、まっすぐで迷いのないエネルギーみたいなものには“救われる”っていう言葉が、私の中ではぴったりくるんです。大げさなようで大げさじゃない、そんな気がしています。

ーー美津未に“救われる”というのは、確かに志摩くんの目線に立つとよく理解ができます。そんな美津未が主人公である、というのが本作の大きなポイントだと思うのですが、作品自体についてはどのように感じていますか?

黒沢:私は中学も高校も東京で育って、今も東京で働いています。なので美津未が地方から東京に来てくれて、東京で生まれ育ってるミカとか結月とか志摩くんたちが美津未によって色々なことに気づかされていくことに、本当に共感を覚えます。自分が重なる部分が小さく散りばめられてるのが物語の魅力だなと思います。

ーーそんな美津未役を演じるにあたって、黒沢さんはどんな準備をされましたか?

黒沢:いや、美津未は結構このままなんです。“このまま”というのもおかしいんですけど……(笑)。今って、声の仕事をやってる人がたくさんいるじゃないですか。それってすごく良いことだなと思っているんです。なぜかというと、声の選択肢が多いということは、作品にとって選択肢が多いということだと思うので。つまり、(一人で)いろんな役を演じられるのはとてもすごいことだけど、たまたまその時期の一人の人間として一番自由度が高い状態で役とシンクロできたら、それがクオリティを上げることにとても近づくと私は思っています。

ーー役に合わせにいくのではなく、人の部分でシンクロできることが理想だと。

黒沢:なので、1本でも多く作品がやりたいという気持ちは、俳優としてあるにはあります。でもそれは一旦置いておいて、今自分が一番身動きがとりやすい状態で、その役の言葉を話したときにそれがそのときの制作陣が求めているテイストに一番近かったら「喜んで作品に携わりたい」と思っています。なので、あえて何かを考えて作り込んで「美津未でした」っていうよりは、そのときに私が感じた喜びとか悲しみとかを美津未ちゃんの言葉に託した、というのが近い感覚です。

ーー役作りについてはとても理解できました。その一方で『響け!ユーフォニアム』黄前久美子役でも感じましたが、役のイメージと黒沢さんの声質はやはりとてもマッチしているように感じています。声作りの部分について何か意識はされているのですか?

黒沢:声作りはちょっとはしますが、7色の声を持っているわけではないので(笑)。なので私のできる範囲で、という前提で、性格がどうこうというよりは骨格とか身長、そして生まれ育った空間の広さを常に大事にしてますね。例えば美津未ちゃんだったら雑音が少なくて広い空間で育ったがゆえに、周りを気にせず喋り続けてきた子だから、キンキンした声じゃないけど声は大きいんじゃないかな、と考えてました。だから美津未ちゃんは低くて大きめの声で喋ってます。

ーーキャラクターの造形とか背景の要素が強いんですね。

黒沢:そうですね。逆にそこにしかこだわりはなくて、私は“監督が作りたいものを作りたい”という思いの方が強くあります。なのでいろいろ用意していっちゃうと、その場で言われたことに「でもこんなに考えてきたのに……」ってなっちゃうじゃないですか。だから、そういうのがなく「分かりました」って言える素直さを持っておきたいなと思って、余白を作っていっています。

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