『らんまん』“きれいなもんじゃない”ものを描く面白さ 万太郎の生き方は現代人の指針に

 万太郎は田邊(要潤)に同行した高藤(伊礼彼方)の屋敷で行われる室内音楽演奏会で、寿恵子とばったり出会う。花のようなドレス姿の寿恵子の美しさに見とれたのもつかの間、彼女は高藤に西洋式なやり方で抱き抱えられて去ってしまう。その時、万太郎に芽生えたほの暗い気持ちは、嫉妬や独占欲のようなものであろうか。自分でしっかり認識も制御もできないおかしな感覚を持てあまし、仕事は順調なのに浮かない気持ちになる万太郎に、クサ長屋の女性陣が自分たちのどす黒い愛について語る場面は、若干詰め込んだ感もあったが、印象的である。

 ゆう(山谷花純)は、身分違いの男性と一度限り結ばれて、子供を妊娠して上京、別の男性と結婚するも、相手の心変わりで離縁され、今に至るという、かなり波乱万丈な経験をさらりと語る。これまで誰にも話さなかったことを万太郎に開示するとは、どれだけ万太郎が長屋で愛されているのか。また、えい(成海璃子)と夫・隼人(大東駿介)の馴れ初めは、彰義隊だった隼人が上野戦争で負傷したところを助けたことだった。「このまま怪我がひどければいいなと思ってました」と言って万太郎を「え」と驚かせる。死なない程度に寝込んでいれば、ずっと家にいてもらえるという逆説的な愛情である。誰もが、本当に好きなものの前では、きれいごとだけでは済まないのだという、これもまた、反・勧善懲悪、人間には陰影があるのだということである。

 恋愛についても、きれいなだけではないことを描こうとしている理由は、万太郎のモデルである牧野富太郎の結婚生活が、品行方正できれいなだけではないけれど、ドラマではそれを深掘りできない、その代わりであろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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