『らんまん』要潤演じる田邊の描き方が腕の見せ所に 牛鍋に詰まった青春と新時代の輝き
牛鍋以上に先端なのがステーキ。それを万太郎にごちそうになったりんは、フォークとナイフをうまく使うことができず、箸でかぶりつく。万太郎に「わからないものは気味悪いよ」と言ったとき、手つかずのステーキが映ったのが印象的だった。美味しく栄養のあるステーキも初めて見たら、気味の悪いもの。このように、見たことがなくて理解できない概念に人は尻込みするし、場合によっては認めないという感情が湧く。万太郎たちは、その未知なることに興味を持って、それを解き明かしていこうと考える者たちだ。田邊もまた、積極的に西洋の目新しいものを取り入れていこうとしているのだが、彼の場合、自分がいいと思ったもの以外、認めないようなところがあるようなのだ。それゆえ、彼の意見に従わない者は研究室から排除されそうでみんなビクビクしている。野宮は万太郎に「逆らうな」と意味深な忠告をする。
田邊が「美しい」と思うものは完璧なものだが、万太郎は完璧でないものも「美しい」と考えている。その考えが対立を生むのか、これまでのように万太郎の博愛精神によって、対立が融解するだろうか。
田邊は完璧なものを優先し、古いもの(完璧ではないという考えなのだろう)を排除し、西洋の新しい価値観に塗り替えていこうとする人物で、万太郎は、古いものも新しいものも、完璧でないものも、過程にあるものも、すべて分け隔てなく、見つめようとしている。万太郎のあり方が今日的であることは明白であるが、田邊をどう描くかが『らんまん』の腕の見せ所であろう。ちょうど、丈之助が、日本の文学は勧善懲悪だが、西洋の文学は生身の人間を描いていると注目していた。『らんまん』は田邊を勧善懲悪のキャラにはしないはずである。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK