『メディア王』いよいよ“最後の戦い”へ 三者三様の弔辞にみる会話劇としてのダイナミズム

 ローガン・ロイの行ってきた破壊を批判するユーアンと、父の創造とエネルギーを称揚するケンダル。それはアメリカンドリーム、資本主義と民主主義、ローガン・ロイという名の滅びゆくアメリカへの弔辞である。ケンダルは締めくくる。「確かに父には恐ろしい力があった。その野心のために誰かを蹴散らしてしまう。だがそれは結局、人間だからだ。何かになり、認められ、何かをしたいという欲だ。今、人々は父の思い出を剪定しようとしている。父の力を軽視したいんだ。怖ろしいほどの力……だが私はあれが欲しい」。

 これは“継承”の儀式なのか? ショーランナーであるジェシー・アームストロング自らが手掛けた脚本は、言葉によってケンダルを父から決別させ、彼に革新をもたらしていく(力を得た言葉とは時に政治的でもある)。自らの目を開かせる言葉を得たケンダル、言葉を発することができなかったローマン、言葉に力を持たせられなかったシヴ。三者三様の弔辞のあり方で最終局面のパワーバランスを描くところに会話劇たる『サクセッション』のダイナミズムがある。言葉によって力を得たケンダルは、言葉によって他者を籠絡していく。今や裏工作担当となった広報ヒューゴー(映画製作者としても活躍する巧者フィッシャー・スティーヴンスがいい)を犬扱いしては、ゴージョーによる買収にウェイスター内で反対案が出ているとリークさせ、ローガンの死後、気落ちしていた運転手コリン(スコット・ニコルソン)の肩を叩いては再雇用する。自信に満ち溢れ、その発話は躁状態の時と異なり、力強い。

 ケンダルの弔辞はもちろんメンケンも引き寄せた。葬儀後の会食で2人は互いに腹の内を探り合う。ウェイスターが置かれている苦境を聞くや、ぬめぬめと身を乗り出すメンケンに、この男が他人の弱みや欲望を嗅ぎ分ける人並み外れた能力を持っていることがわかる。シヴは恥ずかしげもなく自身を売り込むグレッグ(ニコラス・ブラウン)やコナー(アラン・ラック)からメンケンを引き離すと、マットソンに面通しさせる。排外主義者のメンケンにとって外国企業によるウェイスター買収は面白くない。しかし、マットソンは信条を問われると「プライバシー(privacy)、女(pussy)、パスタ(pasta)」とあっさり言ってのけた。シヴはメンケンにお茶汲みレディー扱いされながらも、ゴージョーによる買収後はアメリカ人CEOとして自身が就任するという条件を出し、支持を取りつけようとする(おそらくゴージョーが取り扱っているであろう大量のビッグデータもメンケンには魅力だろう)。いよいよ最後の戦いは、「ロイ兄弟対シヴ(The Roy Boys vs. Shiv the shiv)」だ。

 父の功績を称える弔辞に失敗し、メンケンにも一杯食わされたことを知ったローマンは失意のまま会場を後にする。“下界”は選挙を奪われた怒れる民衆によって混沌と化している。ローマンはもはや高みに上ることもできないまま、彼らに嘲笑を浴びせる。生まれてこの方、意に介したこともない彼らに殴られ、蹴られながら、かつて父が振るった暴力も、混乱の引き金となった自身の決断も過ちだったことに気付いたのではないか。『サクセッション』はここで初めて私たち民衆とロイ家を交錯させると、為す術なく群衆に呑み込まれていくローマンの姿を最後に、最終回に突入していくのである。

■配信情報
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