『ラストマン』インフルエンサーを救った福山雅治の言葉 音声で聞く豊かな作品世界

 最近筆者はSNS断ちをした。正確に言うと「しようとした」が正しく、当初の決意はなし崩し的に忘れられ、3日で元のランドに復帰することになったのだが、歴の浅い自分にも『ラストマン―全盲の捜査官―』(TBS系)第5話の犯人の叫びはストレートに刺さった。

 主にSNSを通じて発信し、世間に影響力を持つ人物がインフルエンサーだ。有名インフルエンサーは企業とタイアップし、PR活動で収益を上げる。『ラストマン』第5話では、料理系インフルエンサーの殺人事件が取り上げられた。被害者はナオンこと直山奈津(わたなべ麻衣)。自宅で倒れているところを発見され、テーブルの上には飲みかけのワインとInstagramにアップされた料理が並んでいた。

 ガラス戸が割られた部屋からは高価な品々が消えており、物盗りの犯行と思われた事件は意外な方向に推移していく。料理がそのヒントになった。警察の捜査は犯人と証拠を発見することが目的だが、視覚に頼らない皆実(福山雅治)の捜査手法は多岐にわたる。鋭敏な聴覚や触覚に加えて、嗅覚も有効なツールになる。と言っても、開始早々、警察犬さながらにクンクンと顔を寄せて足の臭いを嗅ぐ福山に面食らった。しかも相手は被害者の飼っていたマルチーズ。どこの世界に犬の足の臭いを嗅ぐ捜査官がいるだろうか(いやいない)。ネタかと思ったら、ちゃんと後で回収されていたことに驚いた。

 目の見えない皆実が、SNSをメインに活動するインフルエンサーを訪ねる理由はちゃんとあって、味覚、嗅覚、触覚を駆使して自らの推論を裏付けていくのだが、随行する心太朗(大泉洋)も、皆実の影響から次第に冴えた推理を見せるようになる。フォロワー数トップの自宅を訪ねた後、皆実と2人きりになって披露した考えはかなり良い線を行っていた。

 『ラストマン』を観ていると、真実に到達する上で見えないことは障壁にならないように感じる。そう思ってしまうのは、事件の急所を洞察する皆実の能力による部分が大きいとしても、見えるものだけがすべてではないと気付かされる。そのことは、ドラマそのものにも言える。解説放送版が配信されている『ラストマン』だが、映像をオフにして音声だけ聴くとまた違った印象を受ける。ラジオドラマのような親密さとノスタルジックな音楽。福山の色気のあるボイスが豊かな低音をともなって響く。

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