灰原哀の淡い恋心の行方は? 『名探偵コナン 黒鉄の魚影』で原点回帰した面白さ
そして、『BLUE GIANT』の立川譲監督による巧みなストーリーテリングにも引き込まれました。立川監督といえば、『名探偵コナン ゼロの執行人』でハードボイルドな刑事ドラマと爽快なアクションを融合させた手腕家。『ゼロの執行人』は警察が舞台ということもあり、事件の全貌がかなり複雑でしたが、今作では無駄な要素が引き算され、シンプルかつ緩急のある展開になっています。
特に注目してほしいのは、コナンが一度敗北を喫するシーン。コナンは組織によって拉致された灰原を追いかけるも、あと一歩のところで潜水艦に乗り込まれ、行方を見失ってしまいます。黒々とした夜の海を前に、絶望感に一瞬呆けたコナンが、再び瞳に火を宿すまでのシークエンスは見事としか言いようがありませんでした。
さらに、何と言っても注目すべきは、灰原とコナンの関係性です。2人は黒の組織という共通の敵を持ち、正体を隠して子どものフリをしている唯一無二の理解者。特に劇場版の灰原は、コナン=工藤新一であることを知らない蘭に代わって、相棒兼ヒロインのような立ち回りを見せることもあります。
ですが、原作またはTVアニメを観ている方ならご存知の通り、コナン(新一)はずっと蘭一筋。2019年にTV放送された「紅の修学旅行編」で、新一と蘭は正式に付き合うことになります。
灰原にとってコナンは一番の理解者ですが、同時に彼女は蘭に亡くなった姉を重ねており、どちらのことも大切に思っています。本作のエンディングで示された、コナンと灰原、そして蘭の関係性の終着点。それは、シリーズを以前から追ってきたファンにとっても納得のできる結末になっていたのではないでしょうか。
■公開情報
『名探偵コナン 黒鉄の魚影』
全国公開中
原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
監督:立川譲
脚本:櫻井武晴
音楽:菅野祐悟
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ、沢村一樹ほか
製作:小学館、読売テレビ、日本テレビ、ShoPro、東宝、トムス・エンタテインメント
配給:東宝
©︎2023 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
公式サイト:https://www.conan-movie.jp