“朝ドラのヒロインではない私たち”を描いた『舞いあがれ!』 優しさの牢獄からの解放

 しかし、本作終盤に描かれた、真の「舞いあがる」の意味とは、それらからのゆるやかな解放だったのではないか。特に表立った対立構造を作るわけでもなく、問題提起するわけでもなく、気づけば彼女たちは、そういった、彼女たちを無意識に縛る優しさの牢獄とでも言うべきものから自由になっていった。めぐみの経営者としての判断が、舞がこれ以上父親の夢に固執することを拒み、やがて起業という新しい夢へと向かわせたように。めぐみ自身が会社を退き、後継者として舞でも悠人(横山裕)でもなく、従業員・章(葵揚)を選んだように。それによって亡き父・浩太の思いが断たれるわけではなく、巡り巡って、舞は自分の夢に、父の夢を乗せて飛び立った。

 また、貴司が第7週において大瀬埼灯台で「自分を見つけた」ように、久留美もまた灯台の元で「自分を見つけ」る。舞がデザインした灯台と空を飛ぶ飛行機が描かれたパンチングメタルのライトの光に照らされて、久留美と悠人が話す、第109話の停電の夜の場面である。フライトナースになる夢を持つも、父のことが心配な久留美に対し、悠人が「もう十分ちゃうか。自分の幸せ考えて、前に進んだ方がええ」と背中を押す。その時に彼女は「父親を守らなければならないという呪い」から解放され、自分の人生を歩き始めた。

 「まもなく1つ目の目的地に到着します」という舞の声で本作は締めくくられた。ドラマは終わっても舞たちの人生は続く。彼女の人生の目的地はまだ1つ目に過ぎない。そしてそれは、私たちの人生の無限の可能性をも示しているのである。

■配信情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
NHKプラス、NHKオンデマンドにて配信中
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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