『舞いあがれ!』には“恋バナ”が多すぎた? 評価が分かれた“チーム桑原脚本”を紐解く

 「パイロットになる話ではないのか」「どうやら飛ばないらしい」「最初からモノ作りの話で、航空学校編は不要だったのではないか」などと言われつつも、最後の最後にこれまでの数々の経験や人脈を生かし、東大阪と五島列島とを結んで空高く舞い上がった福原遥主演×桑原亮子脚本のNHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』。

 ばらもん凧から模型飛行機、人力飛行機、旅客機パイロット、空飛ぶクルマへと、達成や挫折、再生を繰り返す中、何度も目標や夢の形を変えながら空に舞いあがった締めは美しかった。

 こうした夢の変遷は、オープニング映像と重なる流れだ。と同時に、感音性難聴というハンディを補うため、早稲田大時代には弁護士を目指しつつも、難聴が悪化したことで進路変更を考え始め、「書く仕事」を志し、歌人であり、脚本家になった桑原亮子の人生とも重なっている。

 歌人ゆえに言葉の紡ぎ方が非常に繊細であること、一人ひとりの人物の背景や関係性まで丁寧に描き、モブキャラがいないことなどが本作の大きな魅力と語られて来た。その一方で、「航空学校編」をはじめ、リアリティ重視ということから取材の手間がかかるパートを切り分け、嶋田うれ葉、佃良太が担当するチーム制脚本としたこともあり、「幼少期・五島編が一番良かった」「なにわバードマン編までは良かった」「航空学校編でいったん脱落したけど、途中からまた面白くなった」「尻すぼみ感はあったけど、最後まで観られた」など、部分的に評価が非常に大きく分かれる作品であったことは否めない。

 しかし、チーム制脚本という点を除いても、実は素晴らしいところと微妙なところ、得手不得手が明確に分かれる作品でもあった。

どこまでも孤独で生きにくい“デラシネ”貴司

 キャラクターの中で最も得意としていたのは、言うまでもなく、舞(福原遥/幼少期:浅田芭路)の幼なじみで、後の伴侶、桑原氏と同じく歌人の貴司(赤楚衛二/幼少期:齋藤絢永)だ。子供の頃から周りに合わせること、みんなで遊ぶこと、「普通」とされることが苦手で、そうした息苦しさから逃れるように見つけた居場所が、八木のおっちゃん(又吉直樹)の営む古本屋「デラシネ」だった。舞や久留美(山下美月/幼少期:大野さき)と共に放課後を「デラシネ」で過ごし、舞と久留美が元気のない父を励ますために模型飛行機を作る際にも、一緒に作るわけではなく、「うちの場合(父親)、これ以上元気になったら~」と笑いながら1人で詩集を読み耽るなどしていた。会社員になり、営業成績が振るわず苦しんだ末に、会社を辞めて旅人になったり、短歌賞を受賞してからも商業媒体で求められることに抵抗を示したり、歌人として成功し、私生活では妻子との幸せな生活を手に入れると、今度は短歌が詠めなくなったり……挙句、絶不調の末、舞に背中を押されて八木のいるパリまで会いに行き、コロナ禍で帰国できず、会いたい人に会えない「干からびた犬」になって、ようやく歌が詠めるという、どこまでも孤独で生きにくい「根無草(デラシネ)」である。

 また、そんな貴司が幼い頃から唯一本音をさらけ出せる八木のおっちゃんも当然、得意分野だし、仲良しでいつも元気で賑やかに見えつつ、意外と心配性な貴司の母・雪乃(くわばやりえ)と大らかながら、視野が広く、常に友人や客などの変化に目を配れる父・勝(山口智充)も、見るからに繊細な息子とタイプ違いながら、実は繊細な感性を持つ両親だ。

 他に、星など好きなことはすぐに覚えてしまう一方、友達作りや人間関係等が不得手で、東京の学校になじめず五島に山村留学していた、後に浪速大学で航空宇宙工学を学んでいる朝陽(渡邉蒼/幼少期:又野暁仁)、桑原自身が『ステラnet』(3月4日)のインタビューで「筆が進んだ登場人物」として挙げている悠人(横山裕/幼少期:海老塚幸穏)も、人物の描写にブレがなく、解像度が高い。

 「心の傷」や「悲哀」「欠落」「不器用」「老い」「喪失」などの表現が得意であるために、若くして夫を亡くし、駆け落ち同然で出て行った娘と断絶していた日々のやり直しをする祥子ばんば(高畑淳子)や、会社の危機に思いを残しながら若くして亡くなった浩太(高橋克典)、3代にわたって岩倉家を支えてきた職人・笠巻(古舘寛治)と、その弟子で、一度は家族を養うために引き抜かれてIWAKURAを去ったものの、後に社長を引き継ぐまでに成長する章(葵揚)なども、ブレがなく魅力的に変化が描かれている。

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