『ハマ蹴り』が提示してくれた新しい生き方 紘一といつかの恋が永遠に続くことを願って
オトナの恋は、好きだけで突っ走ることができない。傷つきたくないから強がってみたり、将来を考えて恋を終わらせようとしてみたりする。
これまでのいつか(関水渚)も、そうだった。紘一(藤ヶ谷太輔)との関係を進展させるのが怖くて、無理に強がって。彼の将来のために、「管理人さんのこと、好きになれそうにありません」と嘘をついたこともあった。
でも、縁がある相手とは、何度気持ちが離れても必ず結びつく。『ハマる男に蹴りたい女』(テレビ朝日系)は、恋に不器用なオトナたちに、“そのままでいいんだよ”と伝えてくれるドラマだった。
本作においていちばん感慨深かったのが、紘一が出世や数字以外の達成感を初めて知れたこと。序盤の彼は、はっきり言って管理人の仕事を小バカにしていた。たしかに、億単位のプロジェクトを動かしていた人が、たった80円のために特売セールに挑むとなれば、虚しくなるのも無理はないだろう。
それに、仕事は数字で評価してもらえるが、家事の成果は目に見えて分かりづらい。必死で頑張ったって給料が上がるわけでもないし、昇進するわけでもない。でも、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれて、綺麗な部屋を見て「ありがとう」と微笑んでくれる人がいる。それって、数字では表せない、何ごとにも変えがたい“幸せ”なのかもしれない。紘一が、何気ない幸せを見つけることができて、本当によかった。
ただ正直なところ、「紘一はふたたびエリート人生に戻るのかな?」とも思っていた。なぜなら、彼のまわりにいる人は、母のしま子(大地真央)や元妻の夏美(早見あかり)など、“輝いている紘一”に戻ってきてほしいと願っている人が多かったから。しかし、紘一は大勢の人に喜んでもらうよりも、たったひとりの人(=いつか)に喜んでもらえる人生を選んだ。