『Winny』は“今の社会を作り上げた人物”を映す 情報リテラシーの高さが測られる一作に
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、好きなキーボードはHHKB(Happy Hacking Keyboard)な間瀬が『Winny』をプッシュします。
『Winny』
本作はドキュメンタリー的な性質を帯びていて、事件のことをよく知ることもできるし、この事件で考えるべき本質も伝わる優れた映画だ。個人的にプッシュしたいのは、本作は金子勇さんの性格や人となりも映し出していること。この映画を観れば誰でも、ソフトウェアエンジニア(以下、エンジニア)がどういう生き物なのかを理解できる。
筆者の背景を先に紹介しておくと、文系の学部を卒業後、エンジニアとして4年活動し、現在は編集職をしている。そのため、ある種当事者として語れる立場でもあり、実際に金子さんのような人とも一緒に働いてきた。少なくともこの映画における金子さんの振る舞いは、まさに筆者が見てきた典型的なエンジニア像そのものだった。
一般的に、エンジニアは“改善すること”に大きな喜びを感じる。合理的であることを好み、1時間かかる作業を2分でできるようにしたり、面倒な単純作業をすべて自動化したりするために、日夜プログラミングに勤しむ。合理性を追求するあまり、周囲と比べると少し変に見られることもあるかもしれないが、そういう生き物なのである。
ただ、もしその改善が日常生活レベルではなく、社会の成り立ちを大きく変革するレベルの“改善”だったとしたらーー。例えばレコード・CDでしか聴くことができなかった音楽が、mp3の登場によって簡単に流通、持ち運べるようになり、私たちはいつでもどこでも音楽を楽しむことができるようになった。しかし、同時に違法アップロードが蔓延することとなり、音楽業界は大打撃を受けた。
とはいえ、mp3の技術を作った人たちは悪意を持っていたわけではなく、ただ“改善”していただけなのだ。(※1)今の世の中はIT技術の上に成り立っているが、その1つ1つの技術は、実はこうしたエンジニアたちの純粋な思いによって作られているのだということが、本作を観るとよく分かる。