『舞いあがれ!』古舘寛治に聞く、俳優としての矜持 「“面白いもの”を妥協せず作る」

『コタキ兄弟と四苦八苦』は奇跡的な作品

 日本の映像制作のシステム的に、なかなか難しい問題はあるというが、それでも少しずつ変化している部分を感じることもあるという。

「若い俳優たち自体が、なかなか自分の意見を言えるような環境で育ってきていないので、難しいところはありますが、『舞いあがれ!』の福原遥さんなんかも、しっかりと自分の意見を伝えているところを見ました。笠巻が目を掛けている結城章役の葵揚くんなんかも、すごく見た目もカッコいいけれど、頭も良く人柄もよくて意見も持っている。彼らみたいな俳優がもっと増えていったらいいなと思いますし、そんな若い人たちが、俯瞰で社会全体、業界全体を見ることで、業界もより良く変化していくのかなと思います」

 そんななか、2020年にテレビ東京系で主演を務めたドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』は奇跡的な作品だったという。本作は多くの視聴者から称賛の声が上がるなど高い評価を得る一方、ギャラクシー賞奨励賞を受賞するなど、業界内でもファンが多かった作品だ。

「あの作品は僕と滝藤賢一くんが一緒に何かやろうということで始まった企画なんですよね。とにかくやりたいことをとことん話し合ってね。脚本の野木亜紀子さんも妥協することなく素晴らしい作品を書き上げてくださった。一番の理想形ですし、僕が日本のドラマで主演をやるなんて奇跡だと思います(笑)」

“面白いもの”を妥協せず作ること

『アネット』©︎2020 CG Cinema International/Theo Films/ Tribus P Films International/ARTE France Cinema/UGC Images/DETAiLFILM / Eurospace/Scope Pictures/Wrong men/Rtbf (Televisions belge) /Piano

 2022年に公開された鬼才レオス・カラックス監督作『アネット』に出演していた古舘。監督が来日した舞台挨拶に飛び入り参加した古舘は、「遊んでいるように楽しい現場だった」と話していた。総合芸術と呼ばれる映画は、それぞれの部署のプロが集まる現場。だからこそ「面白い」と思う意見を出し合い、議論し、戦いながら同じ方向に進む現場に参加することが至福の時間になる。

「面白いと思える世界観を監督と共有できれば本当に幸せな時間になります。それができないと地獄のような現場になってしまう(笑)。カラックスの現場は本当に楽しかったんです。監督の人柄も大事ですね。監督がピリピリして対話もできないようだと、現場は楽しくないですね(笑)」

 古舘といえば、沖田修一監督や深田晃司監督作品の常連だ。以前深田監督にインタビューした際、「好きな俳優のタイプ」について聞いたところ、「主体的な俳優さん。脚本をどう読んで、どう演じたら面白くなるのかをアプトプットしてくれる人が好き」と回答し、真っ先に古舘の名前を挙げていた。

「沖田監督も深田監督も、人柄がとても柔和で現場も本当に柔らかい感じなんですよね。しっかりと俳優の意見にも耳を傾けてくださる。非常に雰囲気がいいんです」

 「優れた人は世界中のどこにでもいる」という古舘。配信を含め、いまや世界はより身近になってきた。

「韓国は90年代から世界に目を向けて、30年足らずでオスカーまでとってしまいました。ハングルでも世界で受け入れられるということは、作品さえ良ければ、日本語だって可能性はある。その意味で、やっぱり“面白いもの”を妥協せずに作ることが必要なんだと思います」

 そんな古舘が最近“面白い”と思ったのが、現在公開中のスウェーデンの映画監督リューベン・オストルンドの最新作『逆転のトライアングル』だ。第75回カンヌ国際映画祭で最高賞となるパルムドールを受賞し、第95回アカデミー賞でも作品賞を含む3部門でノミネートされている。

「めちゃくちゃ面白かったです。彼は人間の正体をひん剥くような作品をいつも作るのですが、今回も本当にゲラゲラ笑いながら観ていました。やっぱり西洋人のアイロニックな笑いのセンスは最高です」

 広い視野を持ち、“面白い作品”に魂を捧げる古舘。だからこそ、古舘が出演する新作情報が報道されるたびにワクワクするのだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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