『100万回 言えばよかった』残酷なほどにまっすぐな悠依らの思い 先が見えない事件の真相

 なんと感情の振れ幅の大きい1時間だっただろうか。金曜ドラマ『100万回 言えばよかった』(TBS系)第7話は、これまで以上にコミカルなシーンに笑い、サスペンスな場面でハラハラし、切ない展開に涙がこみ上げた回だった。人の死や犯罪が物語の主軸に置かれながらも、大いに笑えるのがこのドラマのバランスの良さ。これまでは、幽霊の先輩・マーさん(板倉俊之)がそのポジションを担ってきたが、今回はそこに譲の姉・叶恵(平岩紙)が加わってさらにパワーアップした印象だった。

 幽霊の直木(佐藤健)に近づきすぎた結果、体調に異変を感じた譲(松山ケンイチ)。どうやら譲は幽霊の見える家系の中でも、特に共感力が高く、おまけに直木との相性もドンピシャということもあって、その影響をダイレクトに受けているようだ。一刻も早く直木から離れさせたい叶恵。だが、譲は事件を解決したいという刑事としての信念と、徐々に惹かれ始めている悠依(井上真央)を守りたいという気持ちから、なかなか取り合わない。「大丈夫、全然頭痛もないし」とあっけらかんとして返信をする譲に、叶恵も「それは私が祈祷してるからぁぁぁぁあ!」と叫ばずにはいられない。

 そして、まるで叶恵の子どもたちのシッターかのように、すっかり居座っているマーさんにも譲を説得するように依頼。「俺も馴染んじゃってるけど?」というマーさんに「あなたは大丈夫、程よく存在が薄いから」とバッサリ言い切る遠慮がない関係性も笑えた。そんなマーさんが譲に「(乗り移りを)3回やっちゃったらアウトらしいよ」と注意したのだが、すでに2回乗り移られていることが判明し、「リーチじゃん!」と驚愕。このドタバタ感が、回を重ねるたびに事件の闇へと近づく私たちの足取りを軽くさせてくれるのだ。

 譲の命の危機を知り、直木と2人で事件の真相を突き止めることにした悠依。だが、そんな悠依の元に、売春を斡旋していると思われるちーちゃん(神野三鈴)から逃れてきた少女がやってくる。譲に頼ることなく少女を逃がそうと奮闘するのだが、あえなく追っ手に襲撃されてしまう。そばにいるのに物理的に守ることができない直木。間一髪のところで譲が来てくれたから難を逃れたものの、悠依に対して何もしてあげられない自分を突きつけられたに違いない。そんなやるせない思いは悠依も同じだった。助けを求めてきた少女を「守ってあげたかった」と悔しさを隠しきれない。悠依はいつだって守られるばかりで、自分が守る側になれていないことにモヤモヤしていた。莉桜が「“こっち”に来るな」と言って遠ざけてくれたことも、直木が何も言わずに一人で背負ってしまうことも……。

 犯罪のすぐ近くにある環境に身を置くことになった莉桜と、そうはならなかった悠依。事件に巻き込まれて死んでしまった直木と、そうはならなかった悠依。悠依にだってその可能性は十分にあった。ただ、ほんのちょっとだけ運命の歯車が噛み合っただけ。「あっち」と「こっち」その境界線なんて、あってないようなものなのだ。

 そう思いを吐露する悠依にたまらず直木は「無事でいることになんの罪があるんだよ。いいんだよ、堂々と幸せでいろよ」と声をかける。もちろん、その言葉は悠依に直接届かない。そして、譲も「そんな魂のこもった言葉は自分で伝えてください。乗り移るでもなんでもして、自分で伝えてください」と言い切る。すでに「リーチ」がかかっているのだと知った譲が、そう言うのだ。それは命を差し出す覚悟があっての言葉だとわかるからこそ、胸が締め付けられる。3人が3人とも自分の命よりも大切にしたいものがある。その強い思いは、ときに相手を傷つけてでも貫きたいという残酷なものかもしれない。しかしそれがあるからこそ、人はこの世にいる意味があるといえるのではないだろうか。

関連記事