『逆転のトライアングル』は音楽にも皮肉がたっぷり 独特な選曲に込められた意図とは?

 一方で、セレブたちの音楽は怒りや悲しみとは無縁だ。映画の前半。ヤヤが颯爽と登場するファッションショーのシーンでは、まず最初にスウェーデンのチェロ奏者、リネア・オルソンが奏でる「The Ocean」が厳かに流れるが、突然、曲はノリが良いダンスミュージック、アスレ「Thank You」へと切り替わってモデルたちが登場する、という節操のなさ。ショーの後、ヤヤとカールが食事をする高級レストランではクラシック曲「ボッケリーニ:弦楽五重奏曲」。ヤヤやカールが携帯で自撮りをしているクルーズ船のデッキでは、UKソウルの歌姫・デズリーのヒット曲「Life」がBGMで流れているが、映画の中で実際に流れている音楽はセレブたちにとってオシャレな壁紙みたいなもの。誰も音楽に耳を傾けないし、愛情を注がない。

 そんなセレブたちに中指を立てるように、突如挿入されるのがスウェーデンのパンクバンド、リフューズドの「New Noise」だ。嵐に飲み込まれたクルーズ船で、セレブたちが船酔いでゲロを吐き、アビゲイルをはじめ清掃スタッフが黙々と後片付けをする。そこに「New Noise」のイントロが流れ、サビで盛り上がる頃には船のトイレから汚水が溢れ出してクルーズ船はパニックに。「Can I Scream?(叫んでもいい?)」という怒りに満ちた最初の歌詞が、暴風雨で揺れる船の中で汚れ仕事をさせられているアビゲイルたちの胸の内を表していて、「Born Free」に通じる弱者の叫びを感じさせる。さらに社会から疎外された人々に向けて、「『新しいビート」や『新しいノイズ』を手に入れよう!」と訴えるこの歌は、この後に無人島で新しいヒエラルキーが生まれることを予告しているようだ。

 そして、ラストシーンで流れるフレッド・アゲイン&ザ・ブレスド・マドンナ「We’ve Lost Dancing」も印象的だ。最後に明らかになる驚愕の事実。緊迫した空気の中で流れるのは、意外にもアップテンポなハウス・ミュージック。「We’ve Lost Dancing」はパンデミックの最中に書かれたもので、「この厳しい状況を乗り越えよう」と歌っている。普通に聞けば希望に満ちた曲だが、無人島のセレブたちに寄り添った選曲だとしたら、彼らがトラブルを乗り越えた先にあるのは悠々自適の格差社会。アビゲイルは再び清掃人として社会の底辺に引きずりおろされるだろう。そんなヒネりを効かせた選曲の数々が、物語に深みを与えていて、『逆転のトライアングル』は音楽も一筋縄ではいかない映画なのだ。

■公開情報
『逆転のトライアングル』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
監督:リューベン・オストルンド
出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソンほか
配給:ギャガ
Fredrik Wenzel ©Plattform Produktion
公式Twitter:@triangle0223
公式Instagram:@triangle0223

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