「実際の事件をもとにした作品」はどこまで本当? 『呪詛』『グッド・ナース』から探る

 「事実は小説よりも奇なり」と言うが、実際この世の中では時折耳を疑うような事件が起きている。そのなかのいくつかは映画などエンタメ作品の元ネタになり、事件が起きた、あるいは発覚した当時よりも多くの人の注目を集めるようになる。ある作品が「実際の事件をもとにした」と聞き、もとになった事件について調べたことがある人もいるのではないだろうか。

 実話をもとにした映画はジャンルを問わず数多くあるが、それがどの程度実際の出来事を再現しているかは、当然ながら作品によって大きな差がある。ここでは近年「実際の事件をもとにした」作品として注目を集めた2つのホラー/サスペンス映画について、どれほど現実に即しているのか紹介していきたい。

実際の事件から着想を得た? ほぼフィクションの『呪詛』

『呪詛』Netflixにて独占配信中

 日本では2022年7月8日からNetflixで配信が開始された台湾のホラー映画『呪詛』は、「怖すぎる」とSNSを中心に口コミでホラーファン以外の層にも広がり、Netflixのランキング「今日の総合TOP10(日本)」で連日トップを取る人気作品となった。グローバルでも非英語作品第4位を獲得するなど、人気を獲得。本作はファウンドフッテージ形式で、主人公のリー・ルオナン(ツァイ・ガンユエン)が撮影したとされる映像は、最初から最後まで不気味で不穏な空気が漂っている。かつて「超常現象調査隊」として怪奇スポットをめぐるYouTuberだった彼女は、6年前に“絶対に入ってはいけない地下道”を訪れたあと、精神を病んでしまった。ようやく回復し、里子に出していた娘のドゥオドゥオ(ホアン・シンティン)と一緒に暮らせることになるが、今度は娘の身に異変が起きはじめる。「娘との生活を記録したい」と撮りはじめた映像は、図らずも終始不気味な雰囲気に包まれ、グロテスクな描写も容赦がない。

 『呪詛』は実際の事件に着想を得たとされている。それは台湾の高雄市鼓山区で起きた不可解な事件だ。2005年2月、両親と20代の子ども4人からなる6人家族の末娘が、「三太子に取り憑かれた」と言い出したことから、一家に異変が起こりはじめる。その後、さまざまな災厄に見舞われた一家はお祓いを受けたり、風水に頼ったりしたが、事態は悪化の一途をたどるばかり。最終的には各自が自分は道教の最高神・玉皇大帝だ、仙女・西王母だ、その娘の七仙女だ、臨済宗の僧・済公だと名乗り、悪霊を祓うためと言って観音菩薩を名乗る長女を攻撃しはじめた。その結果、4月に長女が死亡。当初家族は、彼女の体から悪霊が出ていったため動かなくなったと思っていたそうだが、2日経っても長女が動かないことを不審に思った父親が隣人に助けを求めたことから、事件が発覚した。この事件は未だ解明されていない謎が多く、全ては三太子の像を動かしたせいではないかとも、父親がその像を処分しようとしていたために祟りにあったのではないかとも言われている。ちなみに長女の死因は多臓器不全で、外的要因ではなかったことから、家族5人は無罪となり、その後、近所の人々の助けで徐々に普通の生活に戻っていったという。

 こうして比べてみると、宗教や呪いというキーワードは共通しているが、『呪詛』の内容がほぼフィクションであることがわかる。本作は2017年ごろからケヴィン・コー監督が短編ホラー3部作として準備していたものが原型となっている。コー監督が台湾で実際に起った事件にインスパイアされ、宗教や伝承を巧みに盛り込んだ『呪詛』を作ったのは、それこそが台湾で映画を製作する意味だと考えたからだという。世界で勝負できるホラー映画を作りたいと考えていた彼は、台湾人が恐怖を感じるものを描くことこそが自身の強みであり、世界で勝負するカギになると語っている。

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