音楽朗読劇『星の王子さま』小倉久寛×水夏希の初日公演をレポート 2人が誘う“砂漠”への旅
音楽朗読劇『星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~』が、1月26日から29日、2月2日から5日にかけて、南青山の劇場BAROOMにて開催中だ。本朗読劇を演出した小見山佳典とプロデューサーの小川仁美にインタビューをした数日後、訪れた初日の公演で私は彼らが話していた、あらゆる言葉の意味を理解した。
『星の王子さま』がなぜ“音楽朗読劇”に? 演出家とプロデューサーが語る“気づき”の視点
音楽朗読劇『星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~』が、1月26日から29日、2月2日から5日にかけて、南…
“音楽朗読劇”として日替わりキャストの2人芝居で展開される本公演は、初日が小倉久寛(星の王子さま)×水夏希(飛行士ほか)の組み合わせであった。以前来たときは昼だったが、夜に来ると会場の雰囲気は違った。丸くステージを囲うようになっている客席に座ると、空間全体に広がるベルベットの質感が際立つ赤いシートが映える。まさに、そこは“劇場”だった。おしゃれな南青山の多国籍料理のバー/レストランの中にあるとわかっているのに、足を踏み入れるとそこが周りの一切から切り離されているように感じる。
朗読劇が始まり、本劇の作曲を務めた滝澤みのりによるピアノの音色とともに現れた小倉と水。小倉はあらゆる作品に出演するバイプレイヤー俳優であるとともに、ナレーションとしての活躍も知られている。筆者は彼のその深くて優しい声を聞くと、世代的に『ペット大集合!ポチたま』(テレビ東京系)に出ていたラブラドール・レトリバーのまさおくんを思い出す。共演の水も、言わずもがなとして知られるトップ俳優。元宝塚雪組男役のトップスターであり、かの『ベルサイユのばら』のオスカル・アンドレ役を務めたレジェンドだ。ステージと座席の距離がかなり近いので、水が登場したときはあまりの美しさに俄然としてしまった。加えて、オープニングアクトとして歌曲が始まると、席から立って客席に向かって歌いかけてくれる。その様子がカッコ良すぎて彼女から目が離せなくなるわけだが、再び席に着き劇が始まると、水はそこにはいなかった。そこにいたのは飛行士と星の王子さまで、気がつけば私たちも南青山ではなく砂漠にいた。
事前に、演出の小見山氏とプロデューサーの小川氏から「8人の王子さま役がいて、それぞれ8通りの王子さまがいる」という話を聞いていたが、すぐにその意味がわかった。小倉の演じる王子さまは、面白いくらい癖が強い。飛行士に羊の絵を描いてもらうときにずっと「ひーつーじー!」と子供のように懇願する面白さや、水とテンポの良いやり取りでボケとツッコミが繰り広げられるコント的な要素もあって、とにかくこの朗読劇は意外性に富んでいるのだ。『星の王子さま』は多くの人に知られ、読まれてきた題材だからこそ言えるが、その内容は非常に哲学的で、実は結末もちょっとだけ悲しい。そのため“『星の王子さま』を読む朗読劇”と聞くと、静かでしっとりしたものを想像していた。しかし、それだけではなくコミカルな演技や、原作にはない現代的な表現や言葉が出たときに笑えるようなものとして作られているのが印象的だった。もちろん、情緒的なシーンにおいては結構目頭が熱くなって、その緩急が私たちを飽きさせない。何より、キャストの2人が役に入り切っているのと同時に、本人たちも自分のセリフの意味を口に出すことで噛み締めているのが客席から伺えた。2人とも泣いていたし、星の王子さま役の小倉に関しては、感極まって暗転した後ずっと目元を拭っていた。泣きの芝居ではなく、俳優が純粋に役に入り込みすぎて涙が出てしまったという瞬間に今まで立ち会ったことがなかったため、個人的には強く印象に残っている。
小倉の王子さまの癖が少し強かったのと、そのキャスト2人の特性を活かして書き加えられているであろうと感じた演出・セリフを目の当たりにすると、今度は他のキャスト陣の公演が気になってくる。2月2日には舞台女優のみならず、ミュージカル映画の吹き替えキャストとしても活躍する島田歌穂と、同じく数々の舞台作品に出演し、かつて2000年に上演された舞台『星の王子様』できつね役を演じた戸井勝海が共演。2月3日は『それいけ!アンパンマン』のバタコ役としても長年活躍してきた声優・女優の佐久間レイと、舞台『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス役で注目を高めた上原理生。2月4日には『涼宮ハルヒの憂鬱』の涼宮ハルヒ役でお馴染み、声優界のスター・平野綾と、NHK連続テレビ小説『天うらら』でドラマ初主演を果たし、その後も多くの作品で活躍する須藤理彩。そして最終日となる2月5日は、元宝塚の月組トップ娘役としても知られる彩乃かなみと、多数の映画に出演する女優・市毛良枝が共演する。「この2人がやったらどうなるんだろう」と想像できない組み合わせで、バチバチの実力者同士が持ち前のキャラクターを活かしながら、それぞれの解釈で役を演じていく。この『星の王子さま』の朗読劇は日替わりキャストになっているからこそ、1回行けば必ず他の回も行きたくなる、そんな仕組みに自然となっているのだ。
私の席は運がいいことに見晴らしがよく、伴奏の滝澤さんの手元まで見られる位置にいたのだが、演奏をしているときの彼女自身も見ていて楽しかった。作曲から手がけたということで、情景やキャラクターの感情を思い浮かべながら、一音ずつ大切に弾いている感覚が伝わってくる。ああ、この朗読劇は製作陣と出演者、いろんな人たちの手で愛されながら作り上げられてきたのだな、と温かい気持ちになった。他では見られない共演によって言葉が丁寧に紡がれる中で、改めて「たいせつなこと」について考えさせられる“気づき”は、本公演に足を運んだからこそ体感できるものである。
音楽朗読劇『星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~』初日公演フォトギャラリー
■公演情報
音楽朗読劇『星の王子さま Le Petit Prince ~きみとぼく~』
・スケジュール
1月26日(木)~1月29日(日)
2月2日(木)~2月5日(日)
※各日14:00開演/19:00開演の2公演。
※開場時間は開演45分前。
・会場
BAROOM(東京都港区南青山6-10-12 1F)
https://baroom.tokyo/
・キャスト(王子×飛行士)
【1月26日(木)】小倉久寛×水夏希
【1月27日(金)】戸田恵子×植木豪
【1月28日(土)】吉本実憂×木戸大聖
【1月29日(日)】新谷ゆづみ×阿部よしつぐ
【2月2日(木)】島田歌穂×戸井勝海
【2月3日(金)】佐久間レイ×上原理生
【2月4日(土)】平野綾×須藤理彩
【2月5日(日)】彩乃かなみ×市毛良枝
・スタッフ
演出:小見山佳典
脚本・作詞:樋口ミユ
音楽・演奏:滝澤みのり
ヘアメイク:松元未絵
歌唱指導協力:堂ノ脇恭子
主催:株式会社フェイス
製作協力:株式会社アミューズ
協賛:森川健康堂株式会社
・チケット
HALL TICKET:8,500円(全席指定)
※未就学児入場不可。
カンフェティ:https://www.confetti-web.com/lepetitprince23/
Peatix:https://lepetitprince23.peatix.com
当日券
前売完売日を除き、各公演の開場1時間前より劇場入口にて販売