『アイカツ! 10th STORY』“異例のネタバレ禁止期間”が設けられた物語構成の必然性
“子供向けじゃない”作品だから取り入れられた、物語上のギミック
映画『未来へのSTARWAY』では既存パートが終わると、卒業記念ライブに向けて協力して準備を進めるいちごたちの姿が描かれる。スターライト学園の卒業という節目に向けてのものと言えど、そこで描かれているのはこれまでと変わらない、ひたむきでありながら楽しくアイドル活動を行うアイドルたちの姿だ。
ところが、卒業記念ライブ自体はほとんど描かれることなく、いちご世代の生徒たちが無事にスターライト学園を卒業したことだけが示され、作品世界の時計の針は4年後へと進められてしまう。ここまで、新規パートに入ってからわずか数分の出来事だった。
成人を迎えてさらに年月が経過して、22歳になったいちごと蘭、そしてあおい。人生の中でも一度きりの、特別なものである卒業記念ライブと比べたら、いちごたちにとって実にありふれたものであろう日常が、それまでの4年間が彼女たちにとってどのようなものであったのかも察せるような丁寧さで、描かれてゆく。
それぞれ、ライブに向けた打ち合わせや、舞台に向けた稽古などを日中に終えたアイドルたちは、とある(些細な)理由で集まり、食卓を囲むことになる。とりとめのない話題に花を咲かせるアイドルたち。今回は顔を出せなかったアイドルたちの近況も話題に上る。みんな、変わらず自分らしく頑張っているようだ。当たり前のようにお酒を飲み始めるアイドルの姿も……。けれど、どのアイドルも『アイカツ!』シリーズをこれまで見届けてきたファンが想像する“未来の姿”から、大きく逸れる者はいないだろう。
本作では、物語の第2幕と言えるこのパートで一気に年月を経過させ、そしてラストとなる第3幕でまた時を遡り、スターライト学園の卒業記念ライブを描いていた。
この構成について、TVシリーズ『アイカツ!』のシリーズ構成を手掛け、本作でも脚本を担当している加藤陽一は映画のパンフレット(特別版)にて「子供以外をターゲットにした『アイカツ!』を作るのって、今回が初めてなんですよね。(中略)子供向けじゃないからこそそういう時間軸が変わるギミックを入れてみたんです」と発言している。
もともとの『アイカツ!』がターゲットとしていた低年齢層の観客では、『未来へのSTARWAY』の時間軸が大きく前後するギミックについて、しっかり理解できない可能性も出てくるだろう。それに、人生におけるステージが変わることによる環境や友人との関係などの変化を身を持って実感できるのは、幾度かの卒業や進学を経験した10代後半くらいになってからではないだろうか?
10周年記念作品である『未来へのSTARWAY』は、まさにそういった「かつて『アイカツ!』を観ていて、10年が経過したいま」を生きている人たちに向けたストーリーなのだ。
とはいえ、これだけ聞くと“奇をてらった”見せ方で、観客を驚かせるためだけのギミックという印象を受ける人もいるかもしれない。このギミックが本作のテーマにおいて必然である理由――それは第3幕で明らかになる。
“この道”の先なら、きっと大丈夫
第3幕で、改めて時間を遡って描かれる卒業記念ライブ。そのクライマックスでいちごたちは、本作のテーマ曲である「MY STARWAY」を披露する。この楽曲もまた、すでに既存パートのオープニング映像などでショートバージョンは公開されていたものの、フルバージョンは今回の映画の中で初解禁となったものだ。
その歌詞には、目前に迫った人生の分岐点で離ればなれになる大切な人へ、互いにエールを送り合う気持ちが、溢れんばかりに込められていた。4年後の未来まで、いちごたちが変わらず前向きに生きていった理由のひとつには、大切な人と再会するその日まで、この楽曲に込めた想いに恥じない自分でいるためでもあっただろうことが、メロディと共に明らかになる。
そしていちごたちの想いは、『アイカツ!』が好きで、この映画を観ている僕たち観客にも伝播する。卒業ライブの中でいちごが観客へと向けた言葉。それはいちごたちを応援する作中のファンへの言葉を借りた、『アイカツ!』を好きになった僕たちへの言葉でもあった。
いちごたち自身がこのライブを糧として遠い未来までまっすぐ生きていったように、『未来へのSTARWAY』を目撃した僕たちも、『アイカツ!』を好きになった自分に恥じぬよう、これから先も、どんなことがあっても、まっすぐ生きていきたい。きっとこの映画を観た者の多くが、素直にそう思ったはずだ。
『アイカツ!』でアイドルたちが披露するライブは、いつも観る者にワクワクをくれた(そもそも、この物語はいちごがアイドルのライブを観たことで始まったのだ)。そんなライブシーンによって物語の“いちばん伝えたいこと”を伝え切るためには、まっすぐ頑張る未来のいちごたちの姿を先に描くのが不可欠であったと分かる。
『未来へのSTARWAY』はシリーズとしては異例のストーリー構成によって、『アイカツ!』を好きになったすべての人へ、ずっと遠い未来まで消えることのない魔法を掛けたのだ。
■公開情報
『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』
全国公開中
キャスト:諸星すみれ、田所あずさ、大橋彩香、黒沢ともよ、沼倉愛美、三村ゆうな、瀬戸麻沙美、安野希世乃、寿美菜子、下地紫野、和久井優、石川由依
企画・原作・制作:BN Pictures
原案:バンダイ
監督:木村隆一
脚本:加藤陽一
キャラクターデザイン:やぐちひろこ
OPテーマ「MY STARWAY」歌:わか・ふうり・ゆな/作詞:こだまさおり/作曲・編曲:石濱翔(MONACA)
EDテーマ「氷の森」歌:わか・ふうり・ゆな・れみ・えり・りすこ/作詞:只野菜摘/作曲・編曲:帆足圭吾(MONACA)
配給:バンダイナムコピクチャーズ
配給協力:バンダイナムコフィルムワークス
©BNP/AIKATSU 10TH STORY
公式サイト:https://www.aikatsu.net/
公式Twitter:@aikatsu_anime