『探偵ロマンス』はロマンに溢れた壮大な“恋文”だ 視聴者を楽しませる3つの夢

 そして、最後の「夢」は、「見る夢」ではなく、見せる側の「夢」である。一度は引退した、老いた探偵・白井三郎は、人々に求められるがゆえ、言葉通り「汗かいて駆けずり回って」、とんでもない跳躍力を披露し大立ち回りを演じてまで、怪盗と対峙しなければならない。太郎が自身の夢に関して言ったように「夢っていうのは毒」なのである。一度食らったら、永遠に追いかけられて逃げられない。それは、小説家の夢を追う太郎だけでなく、人々の求める「名探偵」の夢を背負って生き続ける宿命を背負った白井三郎もまた、そうなのではないか。

 本作のタイトルロゴの下に「Dear Detective from RAMPO with Love」とある。親愛なる探偵へ、乱歩より愛を込めて。つまり本作は、後に江戸川乱歩となる主人公・平井太郎による、名探偵・白井三郎へのある種の「恋文」である。怪盗が探偵を誘う脅迫文が一種の「恋文」であるのなら、作家が推理小説を通して、探偵である「あなた」の物語を描くのもまた、「恋文」なのだろうから。

 「暗闇でしか見えぬものがある」という決め台詞を持つ『カムカムエヴリバディ』における尾上菊之助演じる時代劇スター・モモケンが、秘密俱楽部の会員・住良木となって、冒頭において「世界を見つめる眼差しに、その人間の生きる様が見える」と言った。平井太郎と白井三郎は、互いの目に映る「世界」を見てみたい、知りたいと欲した。そこから物語が動き始める。「人は結局分かり合えないものなのだと思います。しかし、だからこそお互いに手を伸ばし合うのだと思います。わからない、だから知りたい」という太郎の言葉は、「今と昔、男と女」そして「探偵と作家」、全てを繋げる不変の言葉だ。互いの目に映る世界を見たい、知りたいと感じた者同士の濃密な物語は、100年後を生きる私たちの「あなたたちの見る世界を見たい、知りたい」という思いさえも取り込んで、大きな夢を見せてくれるに違いない。

■放送情報
土曜ドラマ『探偵ロマンス』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:49放送 【全4話】
出演:濱田岳、石橋静河、泉澤祐希、森本慎太郎、世古口凌、本上まなみ、浅香航大、松本若菜、近藤芳正、大友康平、岸部一徳、尾上菊之助、草刈正雄ほか
脚本:坪田文
音楽・主題歌:大橋トリオ
制作統括:櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也
演出:安達もじり、大嶋慧介
撮影場所:京都東映撮影所、関西近郊ロケほか
写真提供=NHK

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