『舞いあがれ!』福原遥が決めた進む道 “歌人”貴司の「トビウオ」が響く
『舞いあがれ!』(NHK総合)第69話では、会社をたたむことに決めためぐみ(永作博美)がIWAKURAの従業員たちに頭を下げた。その日、めぐみは祥子(高畑淳子)に「父ちゃん死んだ時、どうして船ば引き継ごうと思ったと?」と問いかけた。祥子は「雄一さんとの思い出がざぁまに詰まっちょる。 あん船に乗れば、今もまだ2人で働いちょる気がすっとさ」と微笑む。その言葉を聞いためぐみは、涙をこらえるようにうつむいた。心を決めたといえど、めぐみにはまだ迷いがあるのだ。
めぐみを支えたいと思う舞(福原遥)も迷っていた。柏木(目黒蓮)は「パイロットになって親孝行すればいい」と彼なりに舞を励ましたのだが、舞は今「お母ちゃん置いて、私だけ前に進んでええんやろか」と思い詰めている。この場面で心を打つのが、舞の幼なじみである久留美(山下美月)と貴司(赤楚衛二)がかける言葉だ。しっかり者の久留美らしいはっきりとした意見と、「ことば」を紡ぐ貴司らしい優しい助言は、対照的な考え方ではあるのだが、どちらも舞の心の支えとなる。久留美は「パイロット諦めるつもり?」「諦めて、舞に何ができるん?」と語気を強めた。貴司に諭され「ごめん、言い方悪いな」と謝る久留美だが、舞の顔をまっすぐ見つめると「舞には自分のやりたいこと、諦めんといてほしいねん」と自らの気持ちをはっきりと伝えた。その後、舞が戸惑いながらも「私は……。お母ちゃんを助けたい」と今の気持ちを言葉にできたのは、久留美が舞の苦悩に真正面から向き合い、率直な言葉をかけたからこそだといえる。一方、貴司は舞の言葉を聞いて、「ほな、そないしたらええやん」と舞の今の気持ちを尊重する。久留美には、パイロットを諦めることを肯定したことに思えたようだが、彼の真意は続けて述べた言葉の中にある。
「トビウオは、水ん中おってもトビウオや」
貴司は、今の舞がめぐみを支えることを選んだとしても、パイロットの夢が失われるわけではない、と励ましたのだと思う。「どういう意味?」「歌人に解説求めんのは、やぼやで」という、2人の幼なじみの普段通りのやりとりもまた、舞の心を元気づけた。問題が全て解決したわけではないが、舞の心はすっと軽くなったに違いない。