2022年の年間ベスト企画
児玉美月の「2022年 年間ベスト映画TOP10」 映画業界の旧態依然な体制の改善を願って
9歳の甥と共同生活をはじめることになった孤独な男を描くマイク・ミルズの『カモン カモン』は、ゲイの父を看取る息子を描いたミルズの過去作『人生はビギナーズ』を変奏させたような映画でもある。ミルズのつねに優しいまなざしによって撮られた映画は、どれも愛すべき作品。スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによる「戦争は女の顔をしていない」を原案とした『戦争と女の顔』は、トラウマを巡って結ばれうる元兵士の女ふたりによるクィア映画であり、血と生の物語が赤と緑のミザンセーヌに仮託された絵画のような照明と色彩が美しい芸術映画だった。6位までは一定の評価がすでに与えられている映画作家たちの新作が並んだが、『戦争と女の顔』の監督であるカンテミール・バラーゴフは、2022年で今後の作品も追いたいと思える最も新たな出会いとなった。『RAW~少女のめざめ~』のジュリア・デュクルノーによる新作『TITANE チタン』は、あらゆるステレオタイプを打ち壊さんとするデュクルノーの作家性が変わらず発揮されている。ジェンダーとセクシュアリティの規範性を軽やかに飛び越えてしまう、まごうことなきクィア映画としても評価したい。韓国映画『ユンヒへ』は、抑圧されたかつての愛を弔うレズビアン的主題と、異なる国に生きる女性の繋がりのフェミニズム的主題の重ね合わせが奏功した美しい一本として忘れ難い。アイルランド映画の『恋人はアンバー』では、レズビアンの少女とゲイの少年が偽装カップルを演じる。一本の作品のなかでクィアのテーマに男性と女性の非対称性の問題が孕む議論を呼ぶ映画でもあるが、ふたりのキャラクターの愛らしさに胸を打たれた。
選外で特筆すべき2022年のクィア映画としては、『ふたつの部屋、ふたりの暮らし』、『私はヴァレンティナ』、『FLEE フリー』、『スワンソング』、『ファイブ・デビルズ』など。
また、フェミニズム映画では、『ガンパウダー・ミルクシェイク』、『ドント・ウォーリー・ダーリン』、『映画はアリスから始まった』、『あのこと』、『セイント・フランシス』などを挙げたい。
そしてきたる2023年の幕開けには、ロウ・イエ『シャドウプレイ』、パク・チャヌク『別れる決心』、ポール・ヴァーホーヴェン『ベネデッタ』、フランソワ・オゾン『すべてうまくいきますように』、マーティン・マクドナー『イニシェリン島の精霊』、ルカ・グァダニーノ『ボーンズ アンド オール』、デイミアン・チャゼル『バビロン』などの錚々たる作品たちが待機している。
2022年の春、ハリウッドで2017年に起きた#MeTooムーブメントが日本では長らく広がっていないと言われていたが、性暴力やハラスメントの告発が相次いだ。数多くの素晴らしい映画との出会いを追い求めると同時に、映画業界の旧態依然な体制の改善を願って声を上げ続けていく必要がある。その松明の火を絶やさないため、改めて結びとして最後に記しておきたい。