「アニメは実写に、実写はアニメになる」第9回

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は“実写映画”なのか 提示された“新しい現実”

存在しない世界を「本物」だと感じてしまう、その先には

 『アバター:WoW』は、ここまで見てきたように、その技術と物語が密接にリンクしている作品で、そのテクニックはアニメーション的な発想に満ちている。しかし、同時に本作を観た人の中に、「ドキュメンタリーを観ているようだ」という感想を持つ人が少なくない(※5)。本作に映るほとんど全てのものは架空の存在にもかかわらず、異様なまでの実在感があるからだ。

 この原稿は、技術の裏側を考えながら書いているわけだが、完成映像を観る時、そんなことを意識する必要は本来ない。出来上がった映像が全てであり、そこに本物を感じれば観客にとっては本物なのだ。『アバター:WoW』は、その意味で実在しないパンドラの世界を本物にしてしまっている。

 そんな事態では、すでに実写かアニメーションかを問うこと自体、意味がないのかもしれない。ここまで技術が向上し、架空の存在を本物だと感じられれば、それが当人にとっての「現実」になる。ジェイクが、地球人の身体を捨てて完全にナヴィの肉体だけで生きている今、ナヴィのアバターが本物かどうかを問うても意味がないのと同じだ。子供も4人生まれ、ジェイクにとってはそれが今の「現実」なのだから。だから、本作を観た観客がこれを本物だと思ってしまってもいいのだ。

 本作のユニークさは、そんな本物感を生み出すために、多数のアニメーション的なテクニックを用いているということだ。アニメーション技術は、本物を、現実を作れてしまうということだ。それは、とても夢がある話であり、ディープフェイクなどに悪用されればヤバい話でもあるわけだが、とにかくそれが今私たちが生きている「現実」なのだ。

 そういえば、アカデミー賞長編アニメーション部門の7つ目の条件は、「実写と見間違うような映画的なスタイルで制作された作品の場合、実写ではなくアニメーション作品であることの根拠となる情報を提出すること」である。アニメーションだと証明する努力をしなければ、それは実写であるということだ。『アバター:WoW』はまさにそういう作品であるし、現代社会は、フェイク情報をいちいちフェイクだと証明しなければ本当だと信じられてしまうわけで、そういう世界の「現実」を体現したような作品だと筆者には思える。その先には希望もあれば、混乱もあるだろう。その「新しい現実」に私たちは対応していくしかない。

引用・参照

※1:https://realsound.jp/movie/2022/03/post-995638.html
※2:『cinefex』日本版、2010年4月号、株式会社ボーンデジタル発行、P63
※3:https://cinemore.jp/jp/erudition/2775/article_2776_p5.html#a2776_p5_1
※4:https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/1463647.html
※5:https://www.cyzo.com/2022/12/post_330701_entry.html

その他参考

神山健治&荒牧伸志監督『攻殻機動隊 SAC_2045』から考える、CGと実写の境界

近年の大作ハリウッド映画の背景は、CG合成が多くを占める。役者はたくさんのシーンをグリーンバックを背に演技しており、役者の肉体と…

・モーションキャプチャと外見の可変可能性と物語のリンクという点では、神山健治&荒牧伸志監督の『攻殻機動隊 SAC_2045』にも同様の指摘ができる。全身義体で脳みそだけを入れ替え可能な世界観とモーションキャプチャでの芝居作りはやはりメタファーのような関係があると言える。
https://realsound.jp/movie/2021/12/post-920294.html

・フレームレートによる動きの印象変化は、以下の動画を見るとよくわかる。4つの比較映像に映る列車の速度は全て同じだが、まるで速度の印象が異なるはずだ。
https://www.youtube.com/watch?v=5R3nAv-jerk&feature=youtu.be

・HFRの歴史については素晴らしい大口氏による素晴らしい解説があるので、興味ある方は是非読んでほしい。
https://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/1461878.html

■公開情報
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
全国公開中
監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバーほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

関連記事