2022年の年間ベスト企画

小田慶子の「2022年 年間ベストドラマTOP10」 SNSの厳しさに耐えて“戦っていた”10本

4.『初恋の悪魔』

 ハイコンセプトでこんがらがった設定ゆえ“一見さん”はついていけなかっただろうが、スマホをいじる手を止めシアターで演劇を観るときのように集中すればこんなに楽しいものはない。主演の林遣都は演劇的なメリハリの効いた演技でありながら演じた人物にしか見えないリアルかつエモーショナルな表現を両立させ、坂元裕二の脚本が目指すところに、みごと到達してみせた。主演男優賞を贈りたい。他にもダブル主演の仲野太賀をはじめとするキャスト全員、めちゃくちゃ上手いのだが、怪しげな演技でさんざん笑わせた後、殺人犯に真っ向から正論をぶつける場面で感動させてくれた安田顕に2人目の助演男優賞を。

5.『あなたのブツが、ここに』

 4月から始まった「夜ドラ」で初めて見通した作品。コロナ禍で仕事がなくなったシングルマザーのキャバ嬢が宅配ドライバーに転身する。エッセンシャルワーカーの日常をまるで同局の『ドキュメント72時間』のようにリアルに描き、「(キャバ嬢としての)うちらが何者でもないことがバレた」などのシビアなセリフにしびれた。脚本・櫻井剛の現段階での最高傑作では。仁村紗和はこの新設枠で主演に抜擢され、EDのダンスも含め堂々たる演技。2022年の新人女優賞を進呈したい。

6.『silent』

 よく考えてみれば不思議な作品だった。なぜなら2022年の現在を描いているのに誰もマスクを着用していないからだ。もしかすると、これは幻想で、川口春奈と目黒蓮が演じたパーフェクトカップルは、コロナ禍前の幸福な世界の象徴だったのか。だから、2人は病気を理由に別れることになったのか。ヒットするドラマには必ずリンクする社会的背景があるものだが、この3年で私たちが抱えることになった別離の悲しさ、疎遠になるさびしさが、主人公たちの流す涙にシンクロした気がした。「待ってるね」の手話演技が破壊力抜群で、木村拓哉のようなスターとはこうして出てくるものなのだと実証した目黒蓮が新人男優賞。

 渡辺あやと坂元裕二が連続殺人の冤罪事件を題材に選び、「本当は恐ろしいことが起こっているのに、みんな気づいていない」「責任を取るべき人物が糾弾されていない」状況を描いたのは偶然なのか。そして、三谷幸喜は「恐ろしいことをしてきた」「責任を取るべき人物」が報いを受けるさまをシビアに描いた。海の向こうで戦争が起こった2022年、国内で元首相が殺された2022年、ドラマがフィクションだからこそ描けたこともたくさんあったのではないかと思う。2023年もドラマに光あれ。

■リリース情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
2023年5月26日(金)発売 ※レンタル同日リリース(全5巻)
<Blu-ray BOX>
価格:26,400円(税込)
<DVD-BOX>
価格:20,900円(税込)

出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」(SPACE SHOWER MUSIC)
プロデュース:佐野亜裕美、稲垣護、大塚健二
発売元:関西テレビ放送株式会社
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
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