『silent』が描いたもっとも残酷な世界 新人脚本家・生方美久の今後に期待すること

 手話やスマホを用いた紬と想のやりとりなど、見どころの多い作品だが、まず何より筆者が驚いたのは物語の核にある性善説。登場人物全員が相手を思いやる「優しさ」を一番に考えて、行動しているように見える。その善意を表面に出すことに対する「てらいのなさ」に衝撃を受けた。同時に自分にはわからない感覚だとも感じた。

 筆者にとって『silent』は、中心にある感性が理解できないドラマで「理解できないけど凄いものを観せられている」というのが正直な感想である。その「凄いもの」を「今の時代の若者の感性」と言い切ってしまうと、自分が若者文化の外側にいることを認めているみたいで嫌になるのだが、きっとそういうことなのだろうと思う。

 唯一、共感できたのが、第8話で描かれた手話講師の春尾と奈々の大学時代の物語。春尾はノートテイク(ノートパソコンに授業で話している内容を打ち込み要約筆記することで情報保障をする)のボランティアをきっかけに奈々と知り合うのだが「就活のため以外にボランティアやる奴いないだろう」「それに結構、楽なんだよ。相手する子耳聞こえないから。余計なコミュニケーションとらなくていいし」と打算的に振る舞う春尾の気持ちはよくわかる。

 そんな彼が奈々のことをもっと知りたいと思い、手話を本気で覚えようとしたことが、逆に二人の関係を壊してしまうのも「あるある」だなぁと感じた。仮に自分が『silent』のような物語を書くのであれば、春尾を主人公にしていたと思うが、彼のような斜に構えた態度は一世代前の若者の感覚で、善意を素直に出せる紬たちの方が今の子の感覚に近いのだろう。

 ただ、『silent』が「優しい世界」を描いているとは思わない。むしろ「誰もが優しく振る舞うがゆえに生まれるもっとも残酷な世界が描かれている」というのが、本作の印象だ。アンバランスで世界が狭くなっている部分もあるが、純度の高い新しい作品を書けるのは新人脚本家にのみ許された特権である。今後も「理解できないけど凄いドラマ」を書き続けてほしい。

■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビにて、12月27日(火)〜31日(土)再放送(※関東ローカル)
第1話:12月27日(火)16:30~17:45
第2話~第4話:12月28日(水)14:45分~17:45
第5話~第6話:12月29日(木)16:00~17:45
第7話~第9話:12月30日(金)14:45~17:45
第10話~最終話:12月31日(土)12:00~14:15

出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
主題歌:Official髭男dism「Subtitle」(ポニーキャニオン)
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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