『クロサギ』平野紫耀&黒島結菜の切ない関係性 2人がフグを食べに行ける未来を願って

「待ってるよ、帰って来るまで待ってるよ」

 ついに最後の敵である“シロサギ”――ひまわり銀行の執行役員・宝条(佐々木蔵之介)との最終決戦に向かう“クロサギ ”こと黒崎(平野紫耀/King & Prince)に、氷柱(黒島結菜)が祈るように掛けた言葉だ。

 いよいよ最終話を迎える『クロサギ』(TBS系)では、最初は詐欺被害者の家族として出会った大学生の氷柱と黒崎の関係性の変化が、毎話描かれてきた。検事を目指し法学部に在学中の氷柱と黒崎はまさに水と油。いくら標的を詐欺師に限定しているとはいえ、同じように詐欺を働き解決を図る黒崎のやり方に最初は異議を唱えていた氷柱だったが、黒崎も同じように詐欺被害者で家族を失っていることを知り、そうならざるを得なかった彼の背景や彼を救えなかった社会のシステムや問題に思いを馳せていく。

 また、詐欺に巻き込まれた大学の同級生を救いたいと動くも、氷柱が頼った弁護士が詐欺師だったことや、最初は尊敬していた助教の鷹宮(時任勇気)が振りかざす“正義感”にはかなり偏りがあり、社会的弱者を尽く見捨てるものだということがわかってきて、堅物な氷柱も何事も一義的ではないことを学んでいく。氷柱は、善悪や白黒ははっきりと別れていて簡単に断罪できるものではないことを痛感しながらも、“法を学ぶ者としてその立場でできることをやりたい、そうすれば黒崎も1人で闘わなくて済む”と思うようになる。

 「別の世界で生きていてもあなたが幸せならそれでいいの。でももしそうじゃないなら、ごめん、やっぱり諦めたくないの。あなたをその違う世界に連れて行ったのは、きっとあなたを救えなかったこっち側の人間だから」と言う氷柱の言葉こそ、黒崎が掛けてほしかった言葉に違いない。家族を一気に亡くし、しかも一家心中のために父親に殺されそうになった息子の気持ちを赤の他人に簡単にわかってなんてほしくないだろうし、安易な同情も正論もまっぴらごめんだろう。でも、黒崎を一人孤独に追いやり、闘わせ続けていることの一端を一見何の罪も犯さずにのうのうと生きている“こっち側”の人間が担ってしまっていることを、“他人事”だと切り捨ててしまわぬ氷柱の姿勢こそ、黒崎にとって少しの救いや希望になり得るだろう。

 自分のために泣いてくれて、最凶の詐欺師としての素性を知りながらもそれ以外の自身の面に目を向けてくれる人がいること。それは御木本(坂東彌十郎)を喰う中で関係のない者まで巻き添えにしてしまったり、自分の敵である桂木(三浦友和)を“親爺”と呼び、彼に育ててもらった恩がある複雑な関係性に自らの心を蝕まれバランスが取れなくなっている黒崎にとって、どれだけ支えになっていただろう。

 どこからともなく聞こえてくる、自分も結局は父親の敵である御木本や宝条、桂木と同じ穴の狢だという声や、復讐をすればするほど自分自身が敵の色に染められ侵食されていく感覚に抗うことができるたった一つの切り札で、黒崎を“こっちの世界”にかろうじて繋ぎ止めることができる存在が氷柱なのかもしれない。

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