『舞いあがれ!』残酷で切ない悠人の雑誌登場 “翼を休める島”で舞は何を得るのか

 リーマンショックの影響が、いよいよ若者にも及んでいく。『舞いあがれ!』(NHK総合)第57話では、舞(福原遥)の就職が企業の経営難を理由に1年延期されることが明かされた。

 浩太(高橋克典)とめぐみ(永作博美)は相変わらず工場の今後を憂う。そんなときに、浩太は息子の悠人(横山裕)がリーマンショックを予期していた天才としてインタビューを受けた雑誌を一人、職場で読む。「大切なのは、他人ではなく、自分を信じること」という息子の言葉を、めぐみが読んだ時の気持ちを考慮してなのかもしれない。もし、リーマンショックを予期していたのならなぜ一言、二人に工場経営に関するアドバイスを言ってくれなかったのか。悠人にとって、両親すら“他人”なのか。浩太の立場からしたら、こんなことを息子に言われて「自分が馬鹿みたいだ」って思うかもしれない。その一方で、自分の息子の立派さも褒めたいだろうし、息子から学びたい気持ちもあるだろう。この何とも残酷で切ない冒頭シーンが、胸に刺さった。

 舞だけではなく中澤(濱正悟)も半年の就職延期になってしまった。2008年、リーマンショックが起こった頃はいわゆる「新就職氷河期」と呼ばれている。最初の就職氷河期はバブルが崩壊した1993年から2005年までを指しており、ようやく企業もスローガンを掲げたり、ブランディングを意識したりして景気を回復させようと世の中が動いていた頃にすかさずリーマンショックを迎えてしまったのだ。

 子供もいる中澤にとって、半年働けないというのはかなりきついだろう。そして舞の“1年”という期間も、正直不安に感じてしまう。1年後、本当に約束通りに働けるのだろうか。言ってしまば、彼らは“ギリギリ”セーフだった組で、もし就職のタイミングがもう少し遅かったら、こんなふうに内定を貰えてなかったかもしれない。

 それに、この頃は就職難という背景があるからこそ、実際に働き始めるとすぐに即戦力になることを会社から求められた。企業側は教育コストをかける余裕がない、しかし一刻も早く新人に仕事を覚えてもらって、会社に還元してほしい。そんな圧力の中、とにかく自分でどうにかしないといけない新卒組には、厳しい基準が求められていたことだろう。舞も、無事1年後就職できたとして、ばんば(高畑淳子)の言うとおり「そこからが大変」かもしれないのだ。

関連記事