佐野弘樹、『舞いあがれ!』水島はハマり役だった? “思いを秘めた”演技の奥深さ

 『舞いあがれ!』で演じる水島もチャラチャラしているが、決してその一言だけでは片付けられない深みのある人物だ。ストイックで自信家の柏木と矢野(山崎紘菜)、どこか達観している中澤(濱正悟)、おっとりとした性格の舞と吉田(醍醐虎汰朗)。そんなバラバラなメンバーをゆるく繋ぎ合わせているのも、実は水島なんじゃないだろうか。

 佐野が本作のドラマガイドで「水島は、一見ただのお調子者ですが、単にふざけているのではなくて、彼なりの気配りがあるのだと理解して演じています」と語っているように、少々空気が読めない言動も、何に対しても熱くなりすぎない一歩引いた態度も“あえて”そうしている感じがする。誰よりも周りが見えていて、舞と矢野が以前より仲良くなったことも、舞と柏木に“アオハル”が訪れそうなことも、最初に気づいたのは水島だった。“お調子者の自分”を作っている感じを滲ませる、かなり難易度の高い芝居を佐野はこなしている。

 他にも舞のプロシージャーの練習に付き合ったり、喧嘩中にもかかわらず柏木の弱点克服を手助けしたり、至る場面でいい子なんだろうなと感じさせてきた水島。でも、だからこそ心配なのも水島だ。初めてのフライト訓練で飛行機酔いしていたり、プロシージャーの手順も舞以上に抜けていたり、水島には様々な課題があるように思えるがそれに一切向き合っている感じがない。いや、ここでも“敢えて”向き合わないようにしているかのような態度を取っている。

 気になったのは、同期たちとのパーティーでのシーン。水島は「気が済んだら帰ってこいとお父さんが言っています」と書いてある母親の手紙を、顔をしかめながらぐちゃぐちゃに丸めていた。その後、「落ちたら群馬に戻って水島ストアの店長だもん。俺、昔から何やっても続かないから、ほらやっぱりかって親父から笑われるんだろうけど」と柏木に話す水島は、表情は笑っていても、どこか痛々しげ。二人は正反対のように思えたが、実は失敗や弱いところを見せるのが苦手なところは共通しているんじゃないだろうか。柏木と違い、本音を取り繕うことができる器用さがある分、水島の方がその異変に周りが気づきにくい。

 舞が柏木に送った「失敗してもええし、弱いとこ見せてもええと思うんです」というメッセージを水島も聞いていたら……。中間審査での自分の出番を前に手を震わせる水島の姿を見ていたらそう思わざるを得ない。

 今後は、2023年2月公開の『TOCKA[タスカー]』や『茶飲友達』などの出演作の公開を控えている佐野。水島がフェイル(=退学)となるかならないかはまだわからない。できればなって欲しくはないが、朝ドラでしっかりと爪痕を残した佐野は俳優としてますます高く舞い上がっていくことだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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