『クロサギ』と『鎌倉殿の13人』に共通点? 父を求めてさまよう青年の物語

 御木本を演じる坂東彌十郎は、現在放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合)でも、主人公の北条義時(小栗旬)の父親を演じていたが、強い主(父親)を求めて若者が翻弄された末に闇落ちしていく物語という意味において『鎌倉殿の13人』と『クロサギ』はとてもよく似ている。

坂東彌十郎の笑顔が前半とはまるで違う意味合いに 『鎌倉殿の13人』重忠ロス発生中

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 『鎌倉殿の13人』で義時の友人の三浦義村を演じる山本耕史も『クロサギ』に出演しており、腐った大企業しか狙わないシロサギ・白石陽一を演じている。映画『シン・ウルトラマン』で、礼儀正しいサラリーマンを模した怪しい外星人(宇宙人)のメフィラスを演じて以降、裏で何かを企んでいる胡散臭い男を演じさせると右に出るものがいない俳優となった山本だが、胡散臭い存在感は『クロサギ』でも健在である。

 黒崎にとって白石は、時に敵対し時に協力関係になる関係だが、彼と話している場面は兄に甘える弟のようにも見える。その意味でも2022年度版『クロサギ』は、詐欺師集団を擬似家族に見立てたホームドラマとしての側面が強まっている。

 また、2006年版と大きく変化したのは黒崎を追う刑事・神志名将の存在だ。前作では哀川翔が演じていたのだが、神志名も黒崎と同じように詐欺師によって人生を狂わされた男だ。そのため、黒崎を追うライバルであると同時に父親的な存在だったが、本作では井之脇海が演じる若い刑事となっており、警察サイドにいる「もう一人の黒崎」という側面が、より強くなっている。

 神志名は、同じ境遇だからこそ、法律を破り詐欺に手を染める黒崎を許せなかった。しかし、御木本を逮捕できなかったことで無力感を抱き、警察であることの限界を感じ始めている。同じ気持ちを、検事を目指している氷柱も抱えている。法律や警察が弱者を守ってくれないという国家権力に対する不信感は前作以上に強まっている。

 このように、2006年版と2022年版の『クロサギ』は同じ題材だからこそ違いが際立っている。この変化は、やはり作られた時代の影響が大きいのではないかと思う。不況は続いていたものの、デフレで物価が安く、今よりも生活に余裕が感じられた2000年代後半と違い、現在は経済もコロナ対策もガタガタで、国に対する不信感は当時よりも高まっている。

 先行きが見えない混迷する2022年に作られたからこそ『クロサギ』はシリアスになり、不在の父を求めてさまよう青年の物語へと生まれ変わったのだ。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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