なぜ平氏も源氏も朝廷を滅ぼさなかった? 『鎌倉殿の13人』で理解する、権威の内実

 「西のやつら」とは、後鳥羽上皇率いる朝廷の貴族たちのことだが、第43回では、武士の世界にじわじわと浸食してくる朝廷の姿が描かれる。時期後継者の養子選びを巡り、上洛した北条政子(小池栄子)が藤原兼子(シルビア・グラブ)と対面する。政治的駆け引きが続く中、次第に打ち解ける二人。「稀代の悪女」と呼ばれている政子に対して「東大寺の大仏さまに似ている」と言って敬意を示す兼子。一方、政子と同行した弟・時房(瀬戸康史)に、後鳥羽上皇は素性を隠して接近する。慈円(山寺宏一)から時房が蹴鞠の名手だと言われ、興味を持ったからだ。

 サッカーのリフティングを彷彿とさせるアクロバティック蹴鞠のやりとりを通して、上皇と時房は心を通わせる。坂東武者たちの内ゲバを延々と見てきた視聴者にとって、心が温まる場面だ。その後、上皇は正体を明かし、敬意を込めて「トキューサ」と呼ぶ。そして「いずれまた勝負しよう」と言い、慈円に自分の子どもを鎌倉の養子にする話を早く決めてやれと言う。

 2020~21年に放送された大河ドラマ『麒麟がくる』を観ている時にも思ったことだが、日本史について考えていく中で、いつも不思議に思うのは、天皇を中心とする朝廷と貴族・貴族の存在についてだ。歴史の授業では平安時代は貴族の時代で、平安末から平家という武士が力を持ち、その平家を倒した源家が鎌倉幕府を開き、武士の時代になったと習う。その過程で、なぜ平家も源氏も朝廷を滅ぼさなかったのかと毎回、疑問に思う。それは戦国時代においても同様で、乱世の覇者となった織田信長も、朝廷を滅ぼさなかった。

 武力や財力において武士は朝廷以上の力を持っていた。だったら、朝廷を滅ぼして、自分たちが新しい皇帝を名乗ってもよかったはずだ。しかし帝の権威は常に存在し、幕府を開いた武士を征夷大将軍に任命する。武士に対してお墨付きを与えるのは、いつも朝廷だった。

 この権威の内実が、昔はうまく理解できなかった。しかし、『鎌倉殿の13人』を観ていると、武力に長けてはいるが、文化や教養を持たない武士たちが、朝廷の権威の背後に存在している文化や教養がもたらす精神的余裕に対し、強い憧れを抱いていたことがよくわかる。多くの犠牲を払った末にようやく武士の時代を実現した坂東武者からすれば、天皇の子を鎌倉殿にするというのは「ふざけるな」という話だろう。しかし、身内同士が殺し合う姿を見てきた実朝や時房が、豊かな文化を持つ後鳥羽上皇に敬意を抱くのは、当然のことかもしれない。

 これから物語は、北条義時と後鳥羽上皇が戦う「承久の乱」へと向かっていく。現時点ではユーモラスに描かれているラスボスの後鳥羽上皇を、今後どう描くのか、楽しみである。

※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正の上、お詫び申し上げます。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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