『舞いあがれ!』もNHK大阪放送局 半年交代体制から生まれた“BK朝ドラ”ならではの持ち味

 現在、シリーズ第107作目の『舞いあがれ!』(NHK総合)が放送中の“朝ドラ”こと「連続テレビ小説」。放送開始から61年間、国民的番組の座を維持し続けるこの長寿シリーズが、半年ごとの交代制で、NHK東京放送局とNHK大阪放送局によって制作されていることをご存じだろうか。「よっぽどの朝ドラフリークでない限り、知らない視聴者も意外と多いんですよ」と編集部から知らされ、原稿の依頼を受けたので、本稿では『舞いあがれ!』と同じ大阪放送局の制作による、通称「BK朝ドラ」の持ち味について考察してみたい。

 第1作『娘と私』(1961年)から第14作『鳩子の海』(1974年)までの朝ドラは、全て1年間の放送だった。続く第15作『水色の時』(1975年年前期)から、特例を除いて半年放送に変更され、4月から9月までの前期を東京局(通称AK)、10月から翌年3月までの後期を大阪局(通称BK)が交代で制作するシステムとなった。

 この「AK」「BK」という呼び方は、それぞれの局のコールサイン(呼び出し符号)、「JOAK」「JOBK」に由来する。2021年後期『カムカムエヴリバディ』の第1話、ラジオ放送が開始した日の「あー、あー。聴こえますか。JOAK、JOAK」という、アナウンサーの第一声が記憶に新しいのではないだろうか。

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 物語の舞台も(特例を除いて)「地の利」を活かして、AK制作が中部地方以北、BK制作が近畿地方以西を受け持ち、ほぼ分担している。

 AK・BKの朝ドラにはそれぞれに独自のカラーがあり、訴求するファン層の「担当分け」があると推察される。2001年前期の『ちゅらさん』、同年後期の『ほんまもん』と、21世紀の幕開けを皮切りにだんだんと「棲み分け」が定まってきて、2011年前期の『おひさま』、後期の『カーネーション』をターニングポイントに、より強くそれぞれの特色を打ち出すようになっていったのではないかと、筆者は考える。番組キャッチコピーで「私は陽子。太陽の“陽子”です!」と謳い、「The 朝ドラヒロイン」を前面に押し出した『おひさま』に対し、「朝ドラヒロインたるものかくあるべし」という既成概念を全否定し、ヒロイン・糸子(尾野真千子)が「あんたの図太さは毒や!」という罵声を浴びる『カーネーション』。この好対照が実に象徴的だ。

 華やかなキャスティングと「映える」シーンが特徴的で、途中から観ても楽しめる朝ドラを目指し、新たな視聴者層、とりわけ若年層視聴者の獲得を目論むAK。「朝ドラ」という枠が好きで、長年試聴し続けている、いわゆる「箱推し」のファンに向け、半年をかけてじっくり描く「物語のダイナミズム」に重きを置くBK。

 双方の特性をざっくりまとめると、こんなところだろうか。もちろん例外もあるし、あくまでも「ざっくりまとめれば」「どちらかといえば」ということなので、ご理解いただきたい。AK、BKそれぞれに違った「味わい」があり、もちろんどちらかに優劣があるわけではない。多様な視聴者に訴求するためには、どちらのアプローチも欠かせないだろう。

 BKの朝ドラは、テーマ選びや手法も含め、「地味」と言われがちだ。地道にコツコツと、一針一針、細かなステッチを刺し重ねて、最後には壮大なタペストリーを仕上げていくような作劇が多い。政春(玉山鉄二)がなかなかウイスキー作りにたどり着かない『マッサン』(2014年後期)。萬平(長谷川博己)がほとんど「マッドサイエンティスト」の形相で、試作と失敗を何度も何度も繰り返し、最終盤で「まんぷくヌードル」の発売までこぎつけた『まんぷく』(2018年後期)。

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 BKの朝ドラは「結果」ではなく、「過程」を大事にする。「刹那の栄華」ではなく、長く追い求めた結果、深部にじんわりと広がる、持続可能な「幸福」を掘り下げるような物語が多い。

 こうした、骨太で滋味あふれる、BK朝ドラの「らしさ」。その萌芽は90年代からすでにあった。1996年後期の『ふたりっ子』は、現在のBK作品群に間違いなく大きな影響を与えた作品と言っていいだろう。

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