『silent』はなぜ我々の心を掴んで離さないのか? 風間太樹監督に演出の意図を聞く

視聴者と演出を通じてキャッチボールをしている

ーー本作は繰り返し観られている方が大変多くて、私も2回3回と観ています。それでも画面に飽きたりすることはなく、むしろ新しい発見があり、毎回楽しく視聴しています。こうして何回観ても楽しめる作品となったのは、意識的なのか無意識なのか、何がそうさせたのでしょうか?

風間:視聴者それぞれの感覚や受け取り方なので正直僕にはわかりません。でも、お芝居も映像も音も、どれもが解像度の高いままに豊かに届けばいいなと思いつつ試行錯誤しながら作っています。そのように思っていただけるというのは、届いているんだろうなという実感にはなっています。とにかく最後まで楽しんで頂けるようにチャレンジを続けたいなと思いながら、各話を撮っています。

ーー具体的にどういったチャレンジを?

風間:例えばカメラワークも、反復させるシーンやカット割に甘んじるのではなく、変化を楽しんで頂けるような新たな表現を模索していきたいと思っています。特に、第5話の湊斗が眠りについて気づけば朝になっていて、目の前には紬がいるという回想のブリッジのシーンは、自分の中でずっと温めていた表現でした。ある種の挑戦でしたし、それがどんなふうに届くのか、反応を見るのを楽しみにしていました。観る側も楽しみにしていただいている一方で、僕らもどんなふうに届くのかを楽しみに表現を考えています。そういったキャッチボールみたいなものが、今このドラマを通して起きているのかなと思ってます。

ーーちなみに、何か影響を受けている映像作品はありますか?

風間:影響を受けている、というと難しいですが、好きな作品はたくさんあります。もともと僕は映画の土壌で作品作りをしてきたので、どうしても映画になってしまいますが、エリック・ロメール監督や、アンドレイ・タルコフスキー監督の映画が好きです。タルコフスキー監督の心情を語るときの景観と被写体の構図、心象風景の表現手法は、僕のクリエイティブの中での指標となっている作家だと思っています。『silent』でも彼らを参考にしたということではありません。ただ1つだけ、カメラマンと照明と「こういうトーンやルックで作れたらいいね」と話していたのは、2018年の韓国映画『はちどり』です。スタッフにも観てもらってディスカッションをしました。今回は初めてご一緒する方が多かったので、指標となる作品を持ち寄り、感覚を共有しながら作っていきました。

ーー『silent』では素敵な画作りをされているなと感じています。現場では画作りにどのようにかかわっていますか?

風間:カット割りやカメラワークなどを一度自分で構成します。その上で俳優のお芝居に合わせて変えていったり、カメラマンのアドバイスで変えていったりもしますが、僕はシナリオができたら撮影に入る前に自分の中で一度全部固めます。その構成を持って現場でディスカッションをしながら無軌道に変えていく作り方をしています。

ーー脚本にも寄る話なのですが、繰り返しのセリフや、ゆっくりなテンポが際立っていると感じています。そのあたりはどう意識されましたか?

風間:それは脚本の生方さんの持ち味だと思っています。僕らが日常会話の中で繰り返してしまうことは大いにありますし、「まー」、とか「うん」、とか、そういった接続される言葉も多いと思うので、その辺の会話のナチュラルさを意識して書かれてると思います。間合いについては、シナリオも踏まえつつ現場で表現を考えていくときの余白というか、対話の中だけではなくて、対話のない映像的な“間”で視聴者の皆さんが彼らの心情に寄り添う時間がもたらされてると思います。なので、“間作り”は現場で積極的に考えているところです。

ーー結構、現場で演出を考えられているんですね。

風間:舞台があって、俳優の芝居、表現があって、カメラがあって……。というところで、やはり机上だけだとわからないことが現場では起こりうるんです。そういったものを一つ一つ、僕だけではなく、スタッフ・キャストが一緒になって反応し合いながら初めて考えが結実する、というのがドラマ・映画の現場だと思っています。なので、本当の意味で「現場に行ってみるまでわからない」。その楽しみが撮影にはあるなと思いながら作っています。

ーーキャストの方とも演出面についてディスカッションすることが多いんですね。

風間:多いです。それはもう多いというか、日々そうである、ということなんですけど(笑)。各々がシーンやセリフについてどのように思っているかを、お互いに差し出しあって、齟齬を埋めていったりもするし、「その方がいいね」ということで受け入れたりもする。そういうことの繰り返しで物語は作られていくものだと思うので、ディスカッションは日々行いますし、長くなるときは1時間ぐらいその議論で時間を使ったりします。

ーー最後に、改めて風間監督にとっての『silent』の魅力とはなんですか?

風間:人を思う気持ちだったり、「好き」という気持ちにひたすらに向き合いながら、登場人物たちの心情を贅沢に時間をかけて描けているのではないかと思います。キャラクター1人1人の考えや思っていることに、視聴者の皆さんも考えを巡らせていただいて、近い距離感で彼らの“揺らぎ”に一喜一憂しながら楽しんでもらえたらいいなと思っていますし、物語を追っていくと垣間見えてくる人間臭さとか煩しさ、心の機微に寄り添う眼差しが『silent』の良さだと思っています。

■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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