しかし、2001年に連載開始された『BLEACH』や2004年の『家庭教師ヒットマンREBORN！』、2007年の『魔人探偵脳噛ネウロ』の主人公らは、各々が死神代行にマフィアの後継、人間界にやってきたがために探偵という借りの姿で食事（謎解き）をしなければいけないなど、何かに巻き込まれて動機を与えられるケースが目立った。

　一方で、2004年から連載開始された『銀魂』では、“動機が特にない”けれども万屋として日々街の人や仲間の生活を助け守る、坂田銀時という主人公の存在が光る。しかし銀さんの万屋も、いつも依頼がなくて貧乏だという話をしていたが、銀さんは飲みに行けていたしキャバクラにだって行っていた。貧乏のレベルが『銀魂』と『チェンソーマン』ではかなりかけ離れているのだ。

　緩やかな景気回復が見られた2013年以降に連載開始された『僕のヒーローアカデミア』は主人公が自己犠牲を払って人々を救う他者を助けようとする。しかし彼が受け継いだOFA（ワンフォーオール）をめぐる問題や立たされた立場はかなり厳しいもので、憧れのヒーロー・オールマイトを取り巻く状況と関係性も実はダーク。かなり主人公にとって辛くて厳しい現実が突きつけられながら、社会から取りこぼされたり見放されたりした存在（ヴィラン）が登場し、ヒーローの対比が鮮烈に描かれる。厳しい世の中でも、他者を助けようとしたいデク。それに対し時代と共に主人公の性格や動機も変わりゆく中で、『チェンソーマン』はかなり現代的だ。主人公に他者を助ける余裕がそもそもないのである。

　近年の第二の就職氷河期、諸外国と比べても低い賃金による雇用のせいで若者の貧困化に拍車がかかる。コロナ禍でそれはより加速し、デートなどの交際費がないため恋愛や結婚が贅沢品になった。いま国民を悩ませるインフレも生活苦を助長する。そんな状況で、大層な夢を抱えられるほど精神的な余裕も生活的余裕もあるわけがないのだ。デンジという主人公は、その中にいるワーキングプアと呼ばれる若者である。

　そんな彼が原作第2巻で敵に挑んだ「夢バトル」は、痛快そのもので。ささやかな夢や動機を「馬鹿みたい」とか「本気になっていない」とか後ろ指をさしたり、自分の夢の方が優っていると相手を見下したり。デンジの「美味しい朝ごはん」に始まる「女を抱きたい」「女と付き合いたい」という動機と夢は一見、ジャンプの主人公らしからぬクレイジーで規格外なものだ。しかし、「些細」のことに見えてもう「些細」ではなくなってしまったそれを求める姿は、おそらく今一番“共感”を集められる存在なのではないだろうか。『チェンソーマン』はデビルハンターの物語であると同時に、主人公デンジが豊かな衣食住に辿り着こうとする物語でもある。だからこそ応援できるし、したい。それと同時に私たちは彼が主人公として登場した世の中からも目を逸らさず、見つめていかなければいけない。

■放送・配信情報
『チェンソーマン』
テレビ東京ほかにて、10月11日（火）24:00放送開始
Amazon Prime Videoにて、10月11日（火）25:00より最速配信
各プラットフォームにて、10月12日（水）25:00より見逃し配信
キャスト：戸谷菊之介（デンジ）、井澤詩織（ポチタ）、楠木ともり（マキマ）、坂田将吾（早川アキ）、伊瀬茉莉也（姫野）、高橋花林（東山コベニ）、八代拓（荒井ヒロカズ）、津田健次郎（岸辺）、内田真礼（天使の悪魔）、花江夏樹（サメの魔人）、内田夕夜（暴力の魔人）、後藤沙緒里（蜘蛛の悪魔）、大地葉（沢渡アカネ）、濱野大輝（サムライソード）
原作：藤本タツキ（集英社『少年ジャンプ＋』連載）
監督：中山竜
脚本：瀬古浩司
キャラクターデザイン：杉山和隆
アクションディレクター：吉原達矢
チーフ演出：中園真登
悪魔デザイン：押山清高
美術監督：竹田悠介
色彩設計：中野尚美
画面設計：宮原洋平
音楽：牛尾憲輔
オープニング・テーマ：米津玄師「KICK BACK」
挿入歌：マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
エンディング・テーマ：
ano「ちゅ、多様性。」
Eve「ファイトソング」
Aimer「Deep down」
Kanaria「大脳的なランデブー」
syudou「インザバックルーム」
女王蜂「バイオレンス」
ずっと真夜中でいいのに。「残機」
TK from 凛として時雨「first death」
TOOBOE「錠剤」
Vaundy「CHAINSAW BLOOD」
PEOPLE 1「DOGLAND」
マキシマム ザ ホルモン「刃渡り2億センチ」
アニメーションプロデューサー：瀬下恵介
制作：MAPPA
©藤本タツキ／集英社・MAPPA
公式サイト：https://chainsawman.dog/
公式Twitter：@CHAINSAWMAN_PR