『石子と羽男』まるで“爆盛カツ丼”のような大団円に 心打つ名台詞と共に最終回を振り返る

「自分から諦めるのは、もうやめます」

 だが、声を上げることは勇気のいることだ。変な目立ち方をして、心無い言葉に傷つけられることもある。多くの批判にさらされれば、「自分のほうが間違っているのでは?」と弱気にもなってしまう。それでも石子は声を上げることは「自分を守る」ことだと諭す。無責任に批判する人は、決して自分を守ってくれるわけではないのだと。

 このドラマを観ていると「弱さ」というのは権力や影響力の有無よりも、その人自身が置かれている現状をより良く変えようという勇気があるかどうかではないかと思えてくる。強い人間が勝ち続けるルールを許している。そんな人に力を与え続けている。それもまた「弱さ」かもしれない。何をしたって変わらない、我慢するしかない、力のない自分には仕方のないこと……と、端から諦めてしまうこと。それが「弱い人間」と言われてしまう所以なのではないか。

 しかし、変えることはできるのだ。どんなに時間がかかっても。小さな小さな行動が積み重なって、望んだ未来を手に入れる可能性はゼロではない。誰かが「僕が目になる」とちょっと勇気を出すきっかけをくれさえすれば。

 羽男が緩衝材となって石子と綿郎(さだまさし)が雪解けを迎えたこともそう。そして石子という心強い存在を得て姉の優乃(MEGUMI)や父の泰助(イッセー尾形)に本当の自分を見てもらうことができた羽男もそうだ。

 人が本気で現状を変えたいと勇気を持って立ち上がったとき、そっと傘を差し出せる人になりたい。そのためには、誰よりも自分自身が「弱さ」から一歩踏み出さなければと奮起した石子。司法試験会場に向かう途中に交通事故を目撃してしまったトラウマを乗り越えて、弁護士になろうと決意する。「自分から諦めるのは、もうやめます」と、つぶやいて。

「2人のこの感じにまた参加できてるのがうれしくて。立場違うけど対等な感じ?」

 このドラマはもう一つ大事なことを語りかける。それは法律は完璧ではないということ。いつも誰かが穴をついて新しい手法で搾取しようと狙っている。誰もが被害者となりうるし、誰もが「弱さ」を抱えている。だから、潮法律事務所のようなマチベンが活躍する様子に胸がすくし、自分が声を上げる番になったら勇気を持とうと奮い立たせることができる。

 加えて、このドラマにロマンを感じるのは、石子と羽男の関係性にもある。「これからも俺の隣にいてくれないかな」なんてドキっとするセリフが飛び出すも、彼らは安易に恋愛関係にはならなかった。もちろん人間的に惹かれる部分はありつつも、あくまでも相棒としての信頼を積み重ねてきたのだ。

 もしかしたら、こんなふうに仕事仲間として相思相愛になることのほうが、よっぽどレアでドラマチックな関係性なのかもしれない。弁護士とパラリーガル、男性と女性、雇われる側と雇う側……立場が違っても思ったことを遠慮なく言える。お互いに違うことを理解しているからこそ、相棒がピンチのときには配慮もし合える。

 そんな職場になかなか出会えていない大庭は、軽妙な掛け合いを見せる2人をうれしそうに眺める。その眼差しは、私たち視聴者と同じではないだろうか。石子と羽男が息ピッタリな様子を見ては「ああ、この感じ」とニヤニヤしてしまう。だから、それが今回で見納めというのはやはり寂しい。

 先述したように、新たな犯罪と法律の改正はイタチごっこ。きっとこれからも“そんなコト”は次々と出てくるはずだ。いくらでも石子と羽男の出番があるということ。だから、ぜひとも続編を! そして「2人のこの感じにまた参加できてるのがうれしくて」と私たちにも言わせてほしい。

■配信情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』
Paraviにて配信中
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし
脚本:西田征史
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
編成:中西真央、松岡洋太
音楽:得田真裕
主題歌:「人間ごっこ」RADWIMPS(Muzinto Records / EMI)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
公式Twitter:@ishihane_tbs
公式Instagram:@ishiko.to.haneo_tbs

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