ジム・キャリー×山寺宏一の運命が交差した映画『マスク』の裏話

 “狂気”を軸に考えれば、ホラーもコメディも同じようなものだ。90年代を代表するコメディ映画『マスク』(1994年)を子供の頃から観るたびに、その過剰なスラップスティックさと少しの暴力性がなんだかクセになり、ただジム・キャリーという男の表情から目が離せなくなる。本作は、間違いなく彼のキャリアに大きな影響を与えた作品だ。もっとおバカで楽しくてライトな映画だと認識していたが、大人になって観直してみると、ギャングが出てきたり、隣人の大家さんを含めて銃をとにかくぶっ放すキャラが多かったり、案外物騒なことをやっている映画だったことに気づく。

ゴアな原作から生まれたコメディ映画として

 何を隠そう、本作の原作となったダークホースコミック『The Mask(原題)』は元々ダークなトーンでバイオレンスな作風の作品なのだ。後にDCコミック『バットマン』シリーズに携わったダグ・マーンケとジョン・アーチュデイが彼らのキャリア初期に手がけた本作では、主人公スタンリー・イプキスがマスクをかぶって悪役になる。マスクが、着ける人間から社会的および道徳的な抑制を全て取り除き、別人格にしてしまうという点は映画と同じ。ただ、映画よりも暴力的というか、着用者の意図とは関係なく残酷なアンチヒーローや、人を殺す悪役にもなってしまうのだ。このコミック版の“マスク”のキャラクター性が、『バットマン』でお馴染みのジョーカーや、『スパイダーマン』や『ドクター・ストレンジ』の生みの親、スティーヴ・ディッコが手がけたクリーパー、そしてジキルとハイド博士からインスパイアされている点からも、原作のダークさが伝わる。

 実は映画『マスク』も、本来はコミックと同じように残酷で暴力的なホラー映画として作られる可能性があった。監督のチャールズ・ラッセルはこの時点で『エルム街の悪夢3 惨劇の館』や『ブロブ/宇宙からの不明物体』を手がけており、本作も自身の得意とする血みどろでゴアなホラーテイストに寄せようと考えていたらしい。しかし、脚本が何度か手直しされた結果、あのコメディ映画のトーンに落ち着いたと言う。もちろん、主人公スタンリー・イプキス役は最初からジム・キャリー以外考えられていなかった。

『マスク』までのジム・キャリー

 キャリーは19歳の時にカナダからアメリカに移り住み、スタンドアップコメディアンとしてキャリアをスタートさせた。その後、『ザ・トゥナイト・ショー』や『サタデー・ナイト・ライブ』などの番組に出演するわけだが、彼の初主演テレビ映画『Rubberface(原題)』は、今振り返ると彼にとってかなり運命的な作品だったと思える。日本劇場未公開の本作は、もともと『Introducing…Janet』というタイトルだったものの、80年代におけるキャリーのブレイクをきっかけに『Rubberface』に改名された。“ゴムのように伸縮自在な顔”という意の題名は、まさにキャリーそのものだ。

『Rubberface』予告編

 物語も興味深い。実は主人公は彼ではなくジャネット(アダー・グラスバーグ)という女の子で、彼女はぽっちゃりであることを理由に学校でいつも揶揄われていた(ひどい話だ)。みんなが自分を笑うのでコメディアンにでもなろうかと地元のコメディクラブに顔を出してみた彼女は、そこでコメディアンとして苦戦している、キャリー演じる青年トニー・マロニに出会う。いつもスベッてばかりの彼と彼女は仲良くなり、彼はジャネットの自己肯定感を高める助けを、彼女はトニーが持つ才能を活かしてコメディアンとして開花する手助けをする、というプロットだ。映画の中で、トニーは自分の顔を変幻自在に動かしたり、声色を変えて別人に扮したりすることで笑いが取れるようになることに気づく。もはや、キャリーの半自伝的な作品みたいなものだ。

 そういうわけで、すでに“ラバーフェイス”として知られていた彼がマスクことスタンリー・イプキスを演じるのは運命であり、必然だった。

ILMとドリーム・クエストが実現させた、実写とCGの融合

 『マスク』の最大の魅力は、キャリーの表情に加えて飛び出す目や舌など、実写とCGがシームレスに融合している点だろう。これを実現させたのは、同時期に『ジュラシック・パーク』で歩く実物大の恐竜を見事、スクリーンに蘇らせる偉業を成し遂げたILM。そして、ラッセル監督と『エルム街の悪夢3』や『ブロブ』で既に仕事を一緒にしていたドリーム・クエスト・イメージズ(こっちはアニメ映画『ダイナソー』を手がけた会社)の3D CGIアーティストが参加。この2社のタッグの血が滲むような努力によって、当時における最先端の映像演出が可能になったのだ。

 ちなみにキャリーは実際、現場で特殊メイクを受けて顔を緑にしている。映像チームは、実際の彼のボディにCGIを組み合わせてシーンを作っていったが、モーションキャプチャーの技術を使わずに全て手書きでアニメーションをつけていたので、本当に難しいことをやっている。中でも最も挑戦的だったシーンは、風船でいろんな動物や銃を作った場面らしい。最初はキャリー本人の手元にCGを挿入しようと考えていたものの、あまりにも難しかったのであのシーンだけキャリーも含めて全てがコンピューターで作られている。

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